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海底都市
かいていとし
作品ID2659
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第13巻 少年探偵長」 三一書房
1992(平成4)年2月29日
入力者tatsuki
校正者松永正敏
公開 / 更新2001-07-17 / 2014-09-17
長さの目安約 172 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   妙な手紙


 僕は、まるで催眠術にかかりでもしたような状態で、廃墟の丘をのぼっていった。
 あたりはすっかり黄昏れて広重の版画の紺青にも似た空に、星が一つ出ていた。
 丘の上にのぼり切ると、僕はぶるぶると身ぶるいした。なんとまあよく焼け、よく崩れてしまったことだろう。巨大なる墓場だ。犬ころ一匹通っていない。向うには、焼けのこった防火壁が、今にもぶったおれそうなかっこうで立っている。こっちには大木が、黒焦げになった幹をくねらせて失心状態をつづけている。僕の立っている足もとには、崩れた瓦が海のように広がっていて、以前ここには何か大きな建物があったことを物語っている。
 悪寒が再び僕の背中を走りすぎた。
 僕はポケットに手を入れると、紙をひっぱりだした。それは四つ折にした封筒だった。その封筒をのばして、端をひらいた。そして中から用箋をつまみ出して広げた。
 その用箋の上には次のような文字がしたためてあった。
――君は九日午後七時不二見台に立っているだろう。これが第二回目の知らせだ。
 これを読むと、僕はふらふらと目まいがした。今日は九日、そしてうたがいもなく僕は今、この手紙にあるとおり不二見台に立っているのだ。ふしぎだ。ふしぎだ。ふしぎという外はない。
 僕は一昨日と昨日とふしぎな手紙を受取ること、これで二度であった。その差出人は誰とも分らない。僕の知らない間に、その手紙は僕の本の間にはさまっていたり、僕の通りかかった路の上に落ちていたりするのだ。その封筒上には、僕の名前がちゃんと記されており、そして注意書きとして「この手紙は明日午後七時開け」と書いてあったのだ。
 昨日開いた第一回目の知らせには「君は今寄宿舎の自室に居る。机の上には物象の教科書の、第九頁がひらいてあり、その上に南京豆が三粒のっているだろう」とあった。
 そのとおりであった。ふしぎであった。まるで僕の部屋をのぞいて書いた手紙のようであった。しかしよく考えてみると、この手紙はその前の日にもらったものである。前の日から、翌日の僕の行動が分っているなんて、全くふしぎである。
 ふしぎは、今もそうだ。僕は一時間前、急に決心してこの不二見台へのぼることにしたのだ。それは第二回目の予言をあたらないものにしてやろうと思い、寄宿舎からは電車にのって四十分もかかる、この不二見台へのぼってみたのである。
 ところがどうだ、ちゃんと的中しているのだ。なんという気味のわるいことだろう。これが身ぶるいしないでいられるだろうか。
 その後、僕は神経を針のようにするどくして警戒していた。それは例の気味のわるい予言的な手紙の第三回目の分がそのうち僕の手に届けられるだろうが、そのときこそ僕はその手紙の主をひっつかまえてやろうと思ったからだ。
 ところがその手紙は、僕の予期に反してすぐには届けられなかった。前の手紙がついたそ…

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