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組合旗を折る
くみあいきをおる
作品ID2707
著者永崎 貢
文字遣い新字新仮名
底本 「日本プロレタリア文学集・20 「戦旗」「ナップ」作家集7」 新日本出版社
1985(昭和60)年3月25日
入力者林幸雄
校正者山根生也
公開 / 更新2002-02-19 / 2014-09-17
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 職場の汚れた窓硝子越しに、その時、作業中の従業員達は見たのだ。組合旗を先頭に馘首された五十幾名が列を組んで古ぼけた工場の門をくぐって来るのを。
「おい、来たぜ来たぜ。」
 従業員達は操作の手を止めて一斉に眼を窓の外に移した。五日前までは同じ職場で肩を並べて働いていた仲間が、今日は失業者になって解雇手当を受取りに来ている!
 組立、熔接、仕上と、三つの職場の棟に囲まれた中央の空地に来ると、一同は立止った。列の先頭にいた組合支部長と二人の幹部が被馘首者を残して重役室の方に出掛けて行った。
 雪空であった。一月の朝の寒風に組合旗がはためいた。閉め切った窓の中へは外の響や物声は聞えて来なかったけれど、従業員達は空地に眼を血走らせて寒々と待ちあぐんでいる失業者の気持ちを鋭く感じた。胸を動悸打たせ拳を固めて、窓から眼を離そうとしなかった。
「手を休めないで。仕事を続けて下きい。」
監督がうるさく言って廻る。

 このAサッシュ工場は一年前には従業員が二百五十人もいた。そして当時から全国同盟関東金属労働組合の締付け工場だった。それが僅かこの一ヵ年の間に、三十人、五十人と馘首されて行った。
「不景気なんだから気の毒だが致方がない。」
 その度に工場主はそう説得した。処が、組合の幹部もまるで同じことを言った。そこで、残った従業員も、
「不景気。成程、そうかも知れない。首切られたのが俺でなくてまあよかったわい。」
 と、その度に安堵の胸を無下した。僅かな涙金でおっぱらわれ、散々になって去って行く仲間を見て見ぬ振りをしている有様だった。
 遂に従業員が百五十人に足りなくなって了った。そして今年になって、まだ松の内も過ぎないのに、不意打に又復バサリと五十幾人が首だ!
「た、他人事じゃねえ。こんなじゃ次に何時来るか知れやしねえ。」
 さすがに残った者も狼狽した。そうなると、唯一の頼みは組合だ。一体、組合は俺達労働者が団結した力でこんな時にこそ資本家に対抗するためにあるのじゃなかったか。組合の幹部は今度こそ棄てては置かないだろう。馘首されたものは勿論、残った者も自発的に事務所に集って来た。
「馘首絶対反対だ!
 馘首を取消せ!」
 協議の結果要求が決った。この要求が入れられねば断然ストライキだ!
 そして、支部長ら幹部が翌日皆を代表して交渉に行こうと申出た。皆が承諾した。
 だが、翌朝、腕を撫で、気を張詰めて今か今かと待っていた職場の従業員の許へ、交渉から帰って来た幹部は、さも深刻な顔付でこう言ったもんだ。
「ストライキ、これは資本家に対して、解雇手当を充分取るための戦術だ。この不景気の際に、手当は充分出すと言うのだから、下手にまごつくと諸君の首も危い。それでは虻蜂取らずだ。この場合、涙をのんでストライキは思い止る方が諸君の為だ。」
 出鼻を挫かれて彼らは力抜して了った。

 が、今…

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