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超人間X号
ちょうにんげんエックスごう
作品ID2719
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第12巻 超人間X号」 三一書房
1990(平成2)年8月15日
初出「冒険クラブ」1948(昭和23)年8月~1949(昭和24)年5月号、「超人間X号」光文社、1949(昭和24)年12月刊行の上記単行本で完結
入力者tatsuki
校正者原田頌子
公開 / 更新2001-12-29 / 2014-09-17
長さの目安約 182 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

大雷雲


 ねずみ色の雲が、ついに動きだした。
 すごいうなり声をあげて、つめたい風が、吹きつけてきた。
 ぐんぐんひろがる雲。
 万年雪をいただいた連山の峰をめがけて、どどどッとおしよせてくる。
 ぴかり。
 黒雲の中、雷光が走る。青い竜がのたうちまわっているようだ。
 雷雲はのびて、今や、最高峰の三角岳を、一のみにしそうだ。
 おりしも雷鳴がおこって、天地もくずれるほどのひびきが、山々を、谷々をゆりうごかす。三角岳の頂上に建っている谷博士の研究所の塔の上に、ぴかぴかと火柱が立った。
 つづいて、ごうごうと大雷鳴が、この山岳地帯の空気をひきさく。
 黒雲はついに、全連峰をのみ、大烈風は万年雪をひらひらと吹きとばし、山ばなから岩石をもぎとった。
 このとき、谷博士は、研究所の塔の下部にある広い実験室のまん中に、仁王立ちになって、気がおかしくなったように叫んでいる。
「雷よ、もっと落ちよ。もっと鳴れ。稲妻よ。もっとはげしく光れ。この塔を、電撃でうちこわしてもいいぞ。もっとはげしく、もっと強く、この塔に落ちかかれ」
 博士は、腕をふり、怒号し、塔を見あげ、それから目を転じて、自分の前においてある大きなガラスの箱の中を見すえる。
 その大きなガラスの箱は、すごく大きな絶縁碍子の台の上にのっている。箱の中には、やはりガラスでできた架台があって、その上に、やはりガラスの大皿がのっている。そしてその大皿の中には、ひとつかみの、ぶよぶよした灰色の塊がのっている。どこか人間の脳髄に似ている。海綿を灰色に染め、そしてもっとぶよぶよしたようにも見える。なんともいえない気味のわるい塊である。
 しかもその灰色のぶよぶよした塊は、周期的に、ふくれたり、縮んだりしているのであった。まるでそれ自身が、一つの生物であって、しずかに呼吸をしているように見えた。
 いったいその気味のわるい塊は、何者であったろうか。
 ガラスの箱のまん中に、その気味のわるい塊があり、その塊を左右からはさむようにして、大きな銀の盤のようなものが直立して、この塊を包囲していた。その銀盤は、よく見ると、内がわの曲面いっぱいに、たくさんの光った針が生えていた。
 その針と反対のがわには、銀色の棒があって、これが左右ともガラス箱の外につきでていた。そして、ガラス箱の真上十メートルばかりの天井の下の空中にぶらさがっている二つの大きな火花間隙の球と、それぞれ針金によって、つながれてあった。
 この大じかけの装置こそ、谷博士が自分の一生を賭け、すべての財産をかたむけ、三十年間にわたって研究をつづけている人造生物に霊魂をあたえる装置であった。そしてその装置を使って最後に霊魂をあたえるには、三千万ボルトの高圧電気を、外からこの装置に供給してやらねばならなかった。
 ところが、三千万ボルトと口ではかんたんにいえるが、ほんとに三千…

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