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文芸時評
ぶんげいじひょう
作品ID2831
副題「ナップ」第三回大会にふれて
「ナップ」だいさんかいたいかいにふれて
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年12月20日
初出「中央公論」1931(昭和6)年7月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-01-30 / 2014-09-17
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 一九三一年五月は、日本のプロレタリア文学運動の歴史にとって、一つの記念すべき月だった。
 中旬に、労農芸術家連盟(機関誌『文芸戦線』)が第三次の分裂を行った。脱退した細田源吉以下十一名はすぐ前線作家同盟を組織した。
 だが数日のうちに組織の名称を第二「文戦」打倒同盟と変えた。彼らは、日本の階級闘争の現実とハリコフ会議で行われた国際的批判とによって、いわゆる「文戦派」のファッショ化が、どんな階級的裏切りであるか、自己瞞着しきれなくなって来た。「ナップ」の守って来た線が正しかったことを認めた以上、別に、前線作家同盟というものを作るべきではない。
 まず、「文戦」を脱退して日本プロレタリア作家同盟に参加した黒島伝治その他は第一回の「文戦」打倒同盟によって、猛烈な自己清掃を行った。それから新しい踏み出しで日本プロレタリア作家同盟に加盟した。
 今度の場合も同じだ。彼らが日本プロレタリア作家同盟に合流することを予定して、「文戦」の幹部と階級的闘争を行ったからには、はっきり第二「文戦」打倒同盟として自身を組織し、自己批判すべきだと決議されたのである。
 第三次の分裂で、「文戦」には前田河広一郎、青野季吉、金子洋文その他が残った。
 一九二九年から世界経済恐慌につれて高揚して来た日本の階級闘争の現実に向って、「文戦」の右翼民主主義偏向はごまかしきれなくなって来た。プロレタリアと農民大衆の力に押されて「文戦」の内部に、イデオロギー的対立が起ったのは当然であった。
 ところが、「文戦」はこれまで、親分子分風な封建的内部組織でやって来ている。つまり、親分=大幹部が、絶対独裁である。あますところなく自己批判し、過去の誤りを清算し、新しく正しい階級的立場に立って、芸術活動をつづけて行くためには、どうしたって、団体内の容赦ない互の討論、決議で前進して行くしかない。しかも、「文戦」の内部組織は、いわゆる下からの意見を通し客観的な正しい規準で論争することのできない有様であった。まず、正しい道へ階級的立場をおき直し、芸術活動を始めるためには、その第一歩として団体の内部組織そのものの封建性を破壊しなければならない。そのことがすでに「文戦」にとって一つの革命的闘争である。
「文戦」内の理論的対立は、この点でも幹部の自己批判の欠如を示した。頭と尻尾に二つ頭をもった蛇では、どっちへ動くこともできない。腐るだけである。そこで、今度の左翼十一名の脱退となった。
 一九二七年の末、労農芸術連盟から「前衛」が分裂し、のち「プロレタリア芸術」と合体して全日本無産者芸術連盟(NAPF)を結成した。
 それから三年余だ。自然発生的に日本プロレタリア文学運動の先行的任務を負った「文戦」の作家たちは、ロマンチシズム、未組織な個人的センチメンタリズム、政治的行動理論の不決定さで右や左へ揺れながら、それでもある水準に…

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