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現代の主題
げんだいのしゅだい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十三巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年11月20日
初出「世界」1946(昭和21)年10月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-05-06 / 2014-09-17
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 民主日本の出発ということがいわれてから一年が経過した。日本の旧い支配者たちがポツダム宣言を受諾しなければならなくなって、日本の民衆はこれまでの時々刻々、追い立てられていた不安な戦争の脅威から解放された。戦争が不条理に拡げられ、欺瞞がひどくなるにつれて、日本じゅうの理性を沈黙させ、それをないものにしていた治安維持法が撤廃された記念すべき日も、近くふたたびめぐり来ようとしている。
 わたくしたちは、こうして営々と三百六十五日を生きとおして今日に至っているのだが、さて、平和・民主の一周年を迎えたという晴々とした歓喜の表情は、おたがいの眼の裡にきらめいているだろうか。旧軍事支配権力の無条件降伏は、考える葦、働く蟻であったわたしたち日本人民すべてに、人間らしい歩み出しの一歩を約束するものであったことを、確認して、この一年を生きてきたものの、明るいまなざしが街路にみちているだろうか。
 率直にいって、日本の初々しい民主の精神は苦しんでいる。わたしたち一人一人のうちに、日本の全精神現象のうちに、民主の精神は、唐突なその目覚まされかたと同時に感じていた混乱、疑惑を、今日まだ十分に整理できずにいると思える。しかも、おくれた日本の覚醒をめぐる情勢の流れは迅くて、内部にちぐはぐなものを感じ、善意の焦点を見いだしかねているままに、現実は、むき出しな推移で私たちの日常をこづいて、ゆっくり考えてみるために止まる時間さえ与えない。体が、混んだプラットフォームに揉まれるばかりか、精神も押され押されて一つの扉口をいや応なく通過させられる状態にある。この場合、私たちの肉体が乱暴なつめこみにたいしてつねにいやさを感じるとおり、精神のラッシュにたいしてつよい不服を感じ抗議を抱いている。精神のラッシュにまぎれて、いかがわしい種々の操作が、今日では法律上の名目も失い、行政上の格式も失いながら、なお最下等動物のように執拗に、ぬけめない陋劣さで活躍していることも、人々が直感しているところである。
 日本にとって、本当にすがすがしい光であるはずの民主精神が、かげをもっている理由の第一は、一種独特な日本の心理過剰の現状ではないだろうか。
 明治からの歴史に、私たちは市民社会の経験をもたなかった。悲しい火花のような自由民権思想の短い閃きをもったまま、それが空から消されたあとは、半封建のうすくらがりの低迷のうちに、自我を模索し、この自然と社会との見かたに科学のよりどころを発見しようとしてきた。われらの故国のおくれた資本主義経済の事情は、時間の上で、西欧諸国から三百年おくれていたというに止らなかった。やすいものを早く、どっさりこしらえて、できるだけあっちこっちに売りさばかなければならず、その原料仕入れに気も狂わんばかりあせり立って、あらゆる国際間の利害にからんで、戦争ばかりしつづけてきた。
 西欧精神と日本の近代…

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