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みみずく通信
みみずくつうしん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「太宰治全集4」 ちくま文庫、筑摩書房
1988(昭和63)年12月1日
初出「知性」1941(昭和16)年1月
入力者柴田卓治
校正者青木直子
公開 / 更新2000-01-28 / 2014-09-17
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 無事、大任を果しました。どんな大任だか、君は、ご存じないでしょう。「これから、旅に出ます。」とだけ葉書にかいて教え、どこへ何しに行くのやら君には申し上げていなかった。てれくさかったのです。また、君がそれを知ったら、れいの如く心配して何やらかやら忠告、教訓をはじめるのではないかと思い、それを恐れて、わざと目的は申し上げずに旅に出ました。先日、私の甘い短篇小説が、ラジオで放送された時にも、私は誰にも知られないように祈っていました。ことにも、君に聞かれては、それこそ穴あらば這入らなければならぬ気持でした。なかなか、あまい小説でした。私はいつも、けちけちしている癖に、ざらざら使い崩すたちなので、どうしてもお金が残りません。一文おしみの百失いとでもいうものなのでしょうか。しかも、また、貧乏に堪える力も弱いので、つい無理な仕事も引受けます。お金が、ほしくなるのです。ラジオ放送用の小説なども、私のような野暮な田舎者には、とても、うまく書けないのが、わかっていながら、つい引受けてしまいます。田舎者の癖に、派手なものに憧れる、あの哀れな弱点もあるのでしょう。先日のラジオは、君には聞かせたくないと思い、君に逢ってもその事に就いては一言も申し上げず、ひた隠しに隠していたのですが、なんという不運、君が上野のミルクホオルで偶然にそれを耳にしたという事で、翌日ながながと正面切った感想文を送ってよこしたので、私は、まことに赤面、閉口いたしました。こんどの旅行に就いても、私は誰にも知らせず、永遠に黙しているつもりでいたのですが、根が小心の私には、とても隠し切る事の出来そうもないので、かえって今は洗いざらい、この旅行の恥を君に申し上げてしまうのです。そのほうが、いいのだ。あとで私も、さっぱりするでしょう。隠していたって、いつかは必ずあらわれる。ラジオの時だって、そうでした。いさぎよい態度を執る事に致しましょう。私は、いま新潟の旅館に居ります。一流の旅館のようであります。いま私の居る此の部屋も、この旅館で一番いい部屋のようであります。私は、東京の名士の扱いを受けて居ります。私は、きょうの午後一時から、新潟の高等学校で、二時間ちかくの演説をしました。大任とは、その事でした。私は、どうやら、大任を果しました。そうしていま宿へ帰って、君へ詐らぬ報告をしたためているところなのです。
 けさ、新潟へ着いたのです。駅には、生徒が二人、迎えに来ていました。学芸部の委員なのかも知れません。私たちは駅から旅館まで歩きました。何丁くらいあったのでしょう。私は、ご存じのように距離の測定が下手なので、何丁程とも申し上げられませんが、なんでも二十分ちかく歩きました。新潟の街は、へんに埃っぽく乾いていました。捨てられた新聞紙が、風に吹かれて、広い道路の上を模型の軍艦のように、素早くちょろちょろ走っていました。道路は、川…

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