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やんちゃオートバイ
やんちゃオートバイ
作品ID3046
著者木内 高音
文字遣い新字新仮名
底本 「赤い鳥傑作集」 新潮文庫、新潮社
1955(昭和30)年6月25日、1974(昭和49)年9月10日29刷改版
入力者林幸雄
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2002-01-03 / 2014-09-17
長さの目安約 13 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

        一

 ポピイとピリイとは、あるお屋敷の車庫の中で長い間一しょに暮して来た、もう中古の自動車です。二人は、それぞれ御主人と奥さまとを乗せて、ちょうど、御主人夫婦と同じように、仲よく、りっぱに暮してまいりました。親切な、やさしい御主人にガソリンだの油だのを十分にいただき、行き届いた手入れをしていただき、何の不自由もありませんでした。
 しかし、一日中、賑やかな街を駈け歩いてから、ガランとした車庫にはいると、二人は、どうも淋しくってたまりませんでした。二人は、それを自分たちに子供がないからだと思いました。
「男の子が一人あったらなア。」とポピイは言い言いしました。「そうすれば、自分の名前をついでもらうことも出来るのだが……。」
「あたしは、女の子が欲しいわ。どんなに可愛いでしょうね。それに女の子だったら、きっと車庫の中もきれいにお掃除してくれるわ。」ピリイは言うのでした。
 しかし、男の子も女の子も、なかなか来てはくれませんでした。二人は、コンクリイトの床を歩きまわる小さなタイヤの音や、夜中に、自分たちのそばで可愛らしいラッパのいびきをかいている小さな自動車のことを考えると、居心地のいい車庫にはいてもちっとも、しあわせだとは思えないのでした。
 ある日、ピリイは言いました。
「あたしたちに、もう、自分の子供が出来るあてがないとしたら、いっそのこと、可哀そうな孤児かなんかを養子にもらったらどうでしょう。」
 ポピイは、しかし、この考えには、あまり乗り気になれませんでした。身寄りのない、気の毒な子を育ててやるということには、もちろん賛成なのですが、それでは、自分の名前をつがせることが出来るかどうかと、心配でならなかったのです。
 でも、ピリイの方は、もう、かたく決心しておりました。いつでも、一度言い出したことを、あとにひかないのが、ピリイのくせでした。ピリイは、どこまでも孤児をもらうのだと言い張りました。ピイピイ、ラッパを鳴らしたり、放熱器からポトポト涙を流したりして、言いつづけるものですから、ポピイは、しまいには、ピリイが、ものを言うのを止めてくれさえしたら、何でも言うなりになろうと思ったほどです。そこで、とうとう二人は、何でも、これから、小さな可愛らしい孤児の自動車を見つけたら、すぐに養子にすることにきめました。

        二

 ピリイは、もう、かなり年をとっていました。放熱器は、こわれかけてガタガタになっているので、すぐに頭がほてって、大へんに気が短かくなりました。ポピイも、また、やっぱり年のせいで、ちょいちょいタイヤが痛むので弱っていました。
 でも、二人は、それは品のいい、やさしい自動車だものですから、自分のことは忘れて、いつでも可哀そうな孤児をもらうことばかり考えていました。で、外へ出るたんび、公園だの、貸自動車屋の車庫だの、し…

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