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副題森鶴子君に答える
もりつるこくんにこたえる
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十四巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日
初出「時事新報」1931(昭和6)年10月7日号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-07-25 / 2014-09-17
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ブルジュア・ジャーナリズムで行われるいろいろの懸賞募集の選は、いつも必ずブルジュア・ジャーナリズムの利害の見地でやられる。
 当選した文章が、だから、いつもその時応募した数百のものの中で一番正鵠を得て書かれているとか、科学的に正しい社会的認識をもって書かれているとかと云うことは保証の限りでない。
 例えば、この「中條百合子様へ」という封建的呼びかけをもった女名前の公開状がそれだ。
 この文章の中には、実に基本的な事実の誤謬や、無知さが、偶然か故意か、現われている。或る部分はまるっきり間違った反動的風聞を基礎にして書かれた頼りないものだ。
 ところで、これらの欠点が、選をした編輯局では分っていないのだろうか? いや、いや。ハッキリ知っている。
 五百余篇も集まった応募文から、何故そんな判りきった誤謬をもったこの一文が当選したのだろう? 答えは一つだ。
 この「中條百合子様へ」は、ブルジュア・ジャーナリズムのやりかた、大衆の社会主義社会建設への欲望への毒針を、小さいながら形式において備えている。だから、これは一寸面白いというわけで当選したのだ。本当のプロレタリアートなら恥しいと思う階級的売りわたしで、当選しているのだ。
 森鶴子という筆者は書いている。「今年の六月、モスク[#挿絵]で開かれた全国経済委員会議でスターリンが五ヵ年計画の失敗を告白している。差別賃銀制が行われるようになった。集団農場から箇別農場へ、強制労働から自由契約労働へ転向した。これは重大な敗北だ。ソヴェト・ロシアのことなら何でもいいと云うかもしれないが、五ヵ年計画について気焔をはいていたお前はこの失敗について何というか?」ソヴェト同盟の五ヵ年計画を中條という箇人の特許品のように云う如何にも滑稽な小ブルジュア的間違いはとにかく、箇々の事実を調べよう。
 森君は、どこの全国経済委員会でスターリンの演説をきかれたんだろう。ソヴェト同盟で行われた全国経済委員会でスターリンは、局部的にもそれらしい演説はやっていない。
 一九三一年六月二十三日モスク[#挿絵]の全国経済委員会で、スターリンはこう云った。「会議の材料から見ると、わが国の産業は計画達成の点からして、ひどくマチマチだ(中略)この理由は産業発達の新しい条件が発生し、根本的に新しい情勢が新しい指導方針を要求していることにある。つまり、失業のあった時代のソヴェトの情勢と今日は全く違って来ている。」そして、六箇条のソヴェト産業発達の条件をあげている。中に、失業があった時代労働力はひとりでに流れて来た。ところが農村と都会に失業がなくなった結果、ソヴェトはもう非社会主義的な労働力の自然流動を待つことは出来ない。故に集団農場との組織的契約によって労働力を満して行かなければならない、と云っている。資本主義的な労働力ダンピングである自由契約なんてことはどこを見て…

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