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「モダン猿蟹合戦」
「モダンさるかにがっせん」
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十四巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日
初出「働く婦人」1932(昭和7)年1月創刊号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-07-27 / 2014-09-17
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 二日ばかり前のことです。用事があって下町へ出かけ、日本橋白木屋の前を通りがかった。いつも人出の多いところだが、今日は又一段と雑踏だ。白木屋の飾窓のまわりが大変な混雑なのです。
 何かと思って見ると、いくつも並んだ大きいデパートの窓々に飾られているのは、例によって呉服物の見本をきた人形ではない。――人形は人形だが、こしらえものの雪の中に立って防寒具をつけた兵士人形です。人がウンとたかっているのはそれを見ていたわけです。大きい字で「満蒙展覧会」という広告も出ている。
 時間があったので一寸入って見る気になりました。
 白木屋の玄関に立っている案内がきをよむと、展覧会の会場はいくつもあり、近日中にえらい陸軍の軍人が来て景物に講演をやったり、軍用犬の実演をやって見せたりする日どりまで知らしてある。――
 御承知の通り、この頃は毎朝新聞をひろげると、満蒙派遣軍の記事でいっぱいです。満州の戦のことばっかり書いて、慰問金寄附の金額がさながら浅草観音の寄進帳のようにズラリとすられている。世界には満蒙事件のほかにいろいろ大切なことが起っているでしょう。日本の中にだって手近いところで市電の大首キリが迫っているし、八幡製鉄所に千人ちかい整理である。東北青森地方はひどい飢饉です。
 そういうことはちょいと新聞にのるだけであとは、どっちを向いても「満蒙」「満蒙」です。われわれの考えるべきこと熱心になるべきことは満蒙事件しかないようですが、それならそれでいい。そもそも満蒙について、白木屋の展覧会はわたし達にどんなホントウのことを教えてくれるか。それを見たくて入ったわけなのです。
 割引電車のように込むエレベータアにつめこまれ、五階でおろされる。紅白幕で飾った展覧会の入口から、マア、これはひどい勢いだ。小学生、小さい女学生、印バンテンの労働者、お仕着せを着たどっかの小僧さんの一団までをまぜて、見物人は犇々太い丈の手摺りぎわへつめよせ、ギッシギッシと動いている。誰もかれも上気せている。係の店員が「御気分のおわるい方は救護所がございます!」と叫んでいる始末だ。「モダン猿蟹合戦」という絵物語が、みんなをこんなに吸いよせているのです。
 猿蟹合戦のはなしを知らないものは子供だっていない。そこをうまくつかまえ、猿を支那にしてある。蟹は日本です。
 蟹が日清戦争で遼東半島というデカイ握り飯を貰ったら、熊(これは帝政時代のブルジョア・地主のロシア)虎(フランス)狼(イギリス)が出しゃばって来て日露戦争で握り飯を蟹からとりあげ小さい柿の種(北満)をおしつけた。百姓姿の蟹は仕かたがないから、その柿の種にせっせと肥しをかけ(二十七年の歳月。十万の聖霊、二十億の投資と書いてあります。)やっと柿の実(石炭、石油、大豆、燕麦その他)をみのらしたら、その出来がいいので猿がやっかみ出した。
 柿の実を盗もうとして、…

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