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若き世代への恋愛論
わかきせだいへのれんあいろん
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十四巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日
初出「昼夜随筆」白揚社、1937(昭和12)年3月1日
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-07-30 / 2014-09-17
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 昨年の後半期から、非常に恋愛論がとりあげられ、いろいろの雑誌・新聞の紙面がにぎわった。一方に社会の有様を考えて見ると、二・二六事件の後、尨大な増税案がきめられて、実際に市民生活は秋ごろからその影響をうけはじめている。煙草・砂糖・織物すべてが高価になり、若いサラリーマンの日常は些細なところまで逼迫してきている。軍需インフレーションは一部をうるおしているであろうが、その恩沢にあずからぬ者の方が多いことは明らかである。この数年来、若い男女の経済生活は、中流層の崩壊につれて困難の度を加えてきている。結婚難も増し、従って、若い人々の間の恋愛の感情も複雑な影響をうけている。その困難を打ちひらいて、若い時代にふさわしい希望と生活にうち向う気力を鼓舞しようとする意気組から、これらのおびただしい恋愛論は簇出したのであったろうか。
 前後して、日本のインテリゲンツィアの間には青年論がとりあげられていた。青年が、現代の日本における社会情勢の中では、数年前マルクス主義が自由に検討された時代のような若い時代の歴史性の自覚、確信、それを可能ならしめる客観的事情もかけているし、さりとて、若い精神と肉体とをある一部の特殊世界の人々の人生観でしばりつけられ、一面茶色の叢のような存在におかれ切ることにも満足できず、その中間の苦痛深い現代青年の問題をとりあげたのであった。
 青年論に連関するものとしてのはっきりした見とおしで恋愛論がおこったともいえない状態であった。むしろ、偶然に社会の耳目をひいた恋愛事件、恋愛による殺傷事件などの刺戟が、昨年から今年にかけてこの恋愛論を生んでいるのではないだろうか。
 そして、現在私たちの周囲にある恋愛論の多くは恋愛論の論というとおかしいが、そういう恋愛論は正しいとか間違っているとか、そういう論の論議にかたよっているように思える。さらに特徴的なのは、恋愛について物をいい、書きしている論客の大部分がほとんど中年の人々であることおよび、それらの恋愛論と読者との関係では、それぞれの論が読まれはしていても現実に若い人々の生活における行動の規準となるものをもっていないことなどが感じられる。
 現代の若い男女のおかれている時代的な境遇というものを洞察して、その脈管にふれて多難な人生行路の上に力づけ、豊富にされた経験と分析とで、若い時代の生活建設に助力しようとする熱意からの恋愛論は、残念ながら少なすぎる。ある主観的な点の強調からの恋愛論やその反駁、さもなければ、筆者自身が大いに自身の趣好にしたがって恋愛的雰囲気のうちに心愉しく漫歩して、あの小路、この細道をもと、煙草をくゆらすように連綿とみずから味っている恋愛論である。
 私は一人の読者として、心に消すことのできない一つの疑問を抱いている。今日、本当に自分たちの生活を現実に即して考え、さまざまの困難に向いあっていて、しかも勇…

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