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仮装の妙味
かそうのみょうみ
作品ID3167
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十四巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日
初出「東京日日新聞」1937(昭和12)年6月4日号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-08-02 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 どの新聞にも近衛公の写真が出ていて大変賑わしい。東日にのった仮装写真は、なかでも秀抜である。昔新響の演奏会で指揮棒を振っていた後姿、その手首の癖などを見馴れた近衛秀麿氏が水もしたたる島田娘の姿になって、眼ざしさえ風情ありげにうつっているのもまことに感服ものであるが、その左側に文麿公が、髪までをヒットラー風に額へかきおろし、腕に卍の徽章をまいて、ヒットラーになりすまして笑いもせず貴公子らしく写っている姿は、相当なものである。あっさりとただ支那服に著換えただけらしい文麿公夫人が悧発そうなまた無邪気な視線で、こちらを見ているのも面白い。

 文麿公が、娘さんのお嫁に行かれる送別仮装会のために、そのヒットラー髭を買いにわざわざ浅草まで出かけたことを弟の秀麿氏が、賢兄の茶目気として紹介している記事である。

 今日の上流の人々の遊びかたの一つの文化上のタイプとしてこの仮装写真を興味ふかく眺めた人は少くなかったろう。仮装の心理。仮装の面白さ。仮装のスリルは随分文学にも扱われて来た。仮装の精髄は、仮装しているものの中への感情移入であると文学は見ている。真偽の境がわれからぼやつくところにスリルがかくされていると見ているのである。
〔一九三七年六月〕



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