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若きいのちを
わかきいのちを
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十四巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年7月20日
初出不詳
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-08-08 / 2014-09-17
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 この間うちの上野駅の混雑というものは全く殺人的なひどい有様であったようだ。その混雑の原因の一つは、お盆にあたって故郷へかえる男女の産業戦士たちの出入りであると云われ、密集して改札口につめかけている大群集の写真も新聞にのった。
 東京駅にも棒をもった少女たちが並んで交通整理に当っているようなニュースが出たけれども、こちらは混むと云っても少女が整理を手伝える程度であったのだろう。幾十万の産業戦士たちは大部分が上野を玄関口とする東北地方から出て来ている。このことは、やっぱり私たちに何かの感銘を与えたと思う。
 丁度このころに、新聞はもう一つの報道をのせた。それは少年少女の病気が俄かに激増して来ているという事実であった。この一ヵ年間に東京の五百人以上を使用している大工場に働いている職工さんたちの罹病率は、前年度に比べて約二三割の増加を示しているそうだ。そして、病気の筆頭は結核で、その次は脚気、視力障害がつづいている。十六歳以下の少年少女工は、あらゆる部面に働いているのだが、機械工場、化学工場などに働く少女工は三人に一人、或は二人に一人の割合で病気にかかっているのである。
 東京の街をすこし歩けば誰にでも判るように、五百人以上も働いている工場などでない小さい下請工場の数は実に夥しい。調査の手のゆき届かない、職工さんというより徒弟じみた条件で働いている少年少女工の数はどれ程だろう。そして、その稚い成長盛りの肉体に医学の鏡が向けられたら、果して何割が健康な体をもっているのだろうか。
 雇主たちは、働いている人々が病気になると三ヵ月は置いておくそうだ。健康保険は三ヵ月医者にかかれることになっているから。その期間がすぎると、結核でも決して結核とは云わず、脚気だから故郷の土を踏めば癒ると国へかえしてしまう。元より病勢はどしどし進んで、若い命は故郷の家へ悲しみと病菌とをのこして死んでしまうわけである。
 上野の駅頭に密集した産業戦士たちの盆帰りの写真は、一方でその記事をよんでいる一般の人々の胸に、どんな感想をもって迫っただろうか。バスケットや小鞄、風呂敷づつみを下げ、汗にまびれ、気の揉める心配そうな顔で改札口の方へ首をのばしている群集の中に、何割もうそれぎり国へかえってしまおうとしている少年少女たちがまじっていただろう。
 故郷はそのようにして帰った息子や娘をどんなに迎えてやることだろう。あのおそろしい人波の底には若い生涯を蝕んだ悲哀と不安とが流れていたにちがいないと思われる。
 空気の清純な田舎に育った青少年は結核菌に対して免疫が体内に出来ていない。生れたままの美しい肉体は病菌には非常にもろい。田舎の子は丈夫だ。田舎暮しからみたら東京の生活は比較にならないほどいい、と云われる言葉は、都会の空気に代々馴れて、結核なども陽性反応を示す体質になっている人々の放言である。
 勤労青少…

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