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二、〇〇〇年戦争
にせんねんせんそう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第7巻 地球要塞」 三一書房
1990(平成2)年4月30日
入力者tatsuki
校正者浅原庸子
公開 / 更新2003-07-01 / 2014-09-17
長さの目安約 71 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

   発端

 そのころ、広い太青洋を挟んで、二つの国が向きあっていた。
 太青洋の西岸には、アカグマ国のイネ州が東北から西南にかけて、千百キロに余る長い海岸線を持ち、またその太青洋の東岸には、キンギン国が、これまた二千キロに近い海岸線をもっていた。
 キンギン国は、そこが本国であったが、アカグマ国のイネ州は、本国とはかなり距たっていた。早くいえば、イネ州というのは、かつてイネ帝国といっていたものが、アカグマ国のために占拠せられて、イネ州と改められたものであった。
 太青洋は、二大国に挟まれ、今やしずかなる浪をうかべて、平和な夢をむさぼっているように見える。そのころ、西暦は、ついに二、〇〇〇年となった。
 果して太青洋は、いつまでも、平和のうちに置かれているだろうか。そのころ、高度の物質文明は、人類をほとんど発狂点に近いまでに増長させていた。


   祝勝日

 桜の花は、もう散りつくした。
 それに代って、樹々の梢に、うつくしい若葉が萌え出で、高き香を放ちはじめた。陽の光が若葉を透して、あざやかな緑色の中空をつくる。
 イネ州は、いまや初夏をむかえんとしている。
 紺碧の空に、真赤なアカグマ国の旗がひるがえっている鉄筋コンクリート建の、背はそう高くないけれど、思い思いの形をしたビルディングが、倉庫の中に、いろいろな形の函を置き並べたように、立ち並んでいる。一般に、その形は、四角か、或は円筒を転がして半分地中に埋めたような恰好であった。そしてどの屋上にも、アカグマ国の国旗は、ひらひらとはためいていた。
 遠くで、楽の音がきこえる。
 その楽の音をききつけて、建物の間を、ぞろぞろと、うすぎたない身なりをした男女の群衆が通っていく。
「あっちだ、あっちだ。なにが始まったんだろうな、あの音楽は……」
「お前、ぼけちゃいけないね。じゃあ、こっちから聞くが、なぜお前はきょうこうしてぬけぬけと遊んでいられるんだい」
「そんなことを聞いて、おれを験そうというのだな」
 と、その男は、歯をむいたが、
「はははは、験したきゃ、験すがいい。おれは近頃ぼやけているにゃ、ちがいないよ。とにかく、明日は労働は休みだといわれたから、今日はこうして、ぶらぶらやっているわけけだ。理屈もなんにも考えない」
「無気力な奴だ。無性者だ。お前はたしかに長生するだろうよ。全くあきれて物がいえないとは、お前のことだ」
「いい加減にしろ、ひとを小ばかにすることは……」
「だって、今日はイネ国滅亡の日だ。だからアカグマ国をあげての祝勝日だということぐらい、知らないわけでもあるまい」
「ああ、そうだったか。イネ国滅亡の日か。すると、われわれの脈搏にも、今日ばかりはなにかしら、人間くさい涙が、胸の底からこみあげてくるというわけだね」
「ふふん、国破れて山河あり、城春にして草木深しというわけだ。だが、そんなこ…

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