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人間の道義
にんげんのどうぎ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十五巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日
初出「民報」1946(昭和21)年3月26~28日号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-09-14 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

          一

 婦人の生活が頽廃しているということがいわれはじめて、暫くになった。性的な面で、特に大都市の婦女子の生活が不規則になり、崩れているということについて注目されて来ている。それは私たちが現に目撃している様々の現象を綜合して結論されることでもある。同じ女の一人として、切なく、苦しく、視線をそらすような場面もあるのである。
 けれども、そのような若い女性の生活の崩壊は、どういうところより起って来ているのだろうか。その点にこそ最も深く真面目な探求が向けられるべきではなかろうかと思う。現れた結果だけつかまえて、是非を論ずる方法は、現実的でもなければ、人間らしい方法でもない。
 世界の歴史は、被うところなく告げている。戦敗後のインフレーションと食糧危機に当って、その国の無産婦女子の生活が惨憺たるものにならなかった例は、ほとんど皆無であることを。
 さらに、世界の現実は、はっきりと示している。一般失業問題が深刻化して来ると、その中でも女子失業者の日々は実に言葉につくせぬ辛苦に充たされるものだということを。
 今日、日本には、この二つの重大条件がきっちり組み合って、女の肩にのしかかっている。民主の声はおこっていても、まだ封建の霧は晴れやらず、支配者はその霧を幸にわが責任の所在をかくして「女子失業者は家庭へ帰るもの」と推定して、現状を糊塗しているのである。けれども、戦争に男たちを召集して、第一番に家庭を破壊したのは、誰であったろう。外部の力に無判断に屈従する習慣を、熱心に日本人民の第二の天性としようとしたのは、何者であっただろうか。今日、婦人のモラルの失墜を嘆くならば、その根本の原因をなした此等の戦争犯罪支配者こそ、先ずきびしく人民の批判を受けるべきである。

          二

 婦人の生活から道義がすたれたというとき、とかくその焦点は女性の性的問題におかれる。
 考えてみれば、女性の問題といえば先ずその性にばかり重点をおく風習は、一つの封建遺風ではなかろうか。
 婦人参政に関しても、道義というものは当然あるわけだ。それがすたれ、或は穢されるということのあり得る事実も明白である。
 進歩党は、過般、築地の待合金田中へ、数人のお歴々女史を招待した。そして、参集した何人かの女史に、党内の重要な椅子を提供した。
 金田中といえば待合政治の根城として、誰知らぬ者はない。女も古参女史になれば男と同等、政治談合を待合でやって冷汗も掻かなくなるものかと、笑ってすぎることであろうか。
 戦争の惨禍と、人民生活の犠牲。なかでも弱い女の蒙っている打撃の致命的な深刻さを痛切に理解し、一刻も早い適切な処置を思うなら、戦犯で潰れた反動政党へ、どうして女が入られよう。家庭を奪い、愛する男たちを殺し、傷け、今日の日本をもたらした、その戦犯の仲間に、女である、という唯一つの理…

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