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幸福のために
こうふくのために
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十五巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日
初出第一回総選挙、日本共産党政見放送(NHKラジオ)、1946(昭和21)年4月4日放送、「新しい婦人と生活」の再版に収録、文連文庫、日本民主主義文化連盟、1947(昭和22)年11月初版、1948(昭和23)年12月再版
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-09-14 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 いよいよ、四月十日も迫って参りました。私たち二千九十一万余人の婦人有権者は、生れてはじめて、自分たちの政治のために、一票を投じる日を迎えることとなりました。
 婦人ばかりでなく、男の方たちにしろ、今度の選挙に対しては、これまでと全く違うこころもちでいらっしゃるでしょうと思います。御自分の一票が、日本のこの有様をどう変えて行くだろうか、ということについて、考えていない方はなかろうと思います。今度の選挙は、その点からも日本の私たちすべてにとって、新しい特別な意味をもっております。
 この間うちから、ラジオはくりかえし、くりかえし、各政党立候補者の政見発表演説を送っております。うちにいて、働きながら、各政党の演説が開けるのは、まことに便利です。黙ってきいていると、政策が語られずに、詩吟をする候補者まで出て来ます。これは世界にも余り類のないことでしょう。
 私たちの毎日は、悠暢なものではありません。モラトリアムで、国民の経済が救われそうに話されましたが、一ヵ月たった今日では、万事がまるで逆になって来ています。米、味噌、醤油のような生活必需物資の値段は、私たちが使えるお金に制限をうけてから、グッと三倍に上りました。勤めにゆくため、学校へゆくため、是非乗らなければならない省線、都電、バスなど、交通費もみんな三倍になりました。今の配給だけで、やって行ける家庭が一軒でもあるでしょうか。
 今日、この有様の中でも、銀行家や金持ちは、コモかぶりを置いて暮しているという話をきくとき、私たち女の正直な心は、おどろいて目を見張ります。
 そんなことがあって、いいものでしょうか。みんなが飢えて死にそうだというとき、それでいいものでしょうか。私たち女は、思わず自分の胸にしっかり我が子を抱きしめて、この恐ろしさから、命を守ろうとします。
 こんどの戦争で、良人や父、兄弟を失った不幸な婦人たちは、何十万あるでしょう。まだ復員して来ない留守を、女の手で支えている健気な婦人たちが、何万人あることでしょう。その方々は、どういう思いで、今日を送り迎え、自分の投票を考えていらっしゃるでしょう。
 私たちは、今日の日本の立て直しと、自分たちの生活改善の実際の必要に立って、その立場から政党を選んでゆくのが、一番正しいと知っております。
 例えば、今私たちの目の前に河があります。流れは急で、一人一人ではとても歩いて渡れません。うしろからは、飢餓という獣の大群が、刻々迫って来ます。生きるために、どうしてもこの河一つは越さなければならない。
 こういう危急の時に、爪先も濡らさず岸に立って、諸君、まず、橋を作る材木を出し給え。マァ、何の彼のいわず、材木だけは、ともかく僕にわたし給え。いずれ橋はかけてやると、筋の通った将来の計画も誠意もなしに演説している者を、誰が対手にするでしょう。これが、既成政党の姿です。
 …

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