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世界の寡婦
せかいのかふ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十五巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日
初出「婦人公論」1946(昭和21)年12月号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-09-17 / 2014-09-18
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 八月十五日に戦争が終って、はじめて日本じゅうの家々に明るく電燈がついた。久しぶりにうす暗いかさをとりはずし、隅々までくっきりと照らしだされた炉ばたに坐って一家のものがあらためて互の顔を眺めあった刹那、湧きあがった思いと新たな涙こそ忘れがたいと思う。冴え冴えとした夜の明りは、何ヵ月も薄くらがりにかくしていた家の様子をはっきりと目に見させ、それとともに、この灯の下に、団欒から永久にかけてしまった、いとしい者のあることをも、今さら身に刻みこむ鮮やかさで思い知らされたのであった。灯のついたはじめての夜、家々の思い出と涙とは新たであった。
 戦争で良人を失った女のひとの数は日本だけでどのくらいにのぼるだろう。今こそ数はわからないが、先頃の人口調査の結果では、男女の人口比率で、日本では婦人が男子よりも三百万人多かった。ヨーロッパの国々とちがって、これまでの日本は大体男女人口比率が平均していたのに、この戦争のあとでは、三百万人も婦人が多くなった。つまりそれだけ男が殺された。三百万人という婦人の中には、もとより年よりも子供も入っていよう。しかし、どんなに多い割合で良人を失った妻、父や兄弟を失った娘、息子らを失った母、そして、愛人を死なした若いひとたちがこめられていることだろう。
 第二次ヨーロッパ大戦で、大きい深刻な犠牲を蒙ったのは、日本の婦人ばかりではなかったし戦争に敗北した国々の婦人たちばかりでもなかった。ドイツ・イタリー・日本。これらの国の女性は、ほんとうに有無をいわさず、愛情の懐から男たちを奪われ、野蛮と不条理で押しすすめた戦争のうちに愛する者たちを死なした。ファシズム・ナチズムの不条理と非人間らしさと戦って、それに勝利し、人間は最後には理性ある生きものであることを証明した民主主義国――アメリカ・イギリス・ソヴェト同盟・中国その他の国々でも、そこで行ったのは戦争であった。大規模で最も科学的な殺戮であった。正しさのためにも婦人は自分と愛する者たちの運命とを、歴史の仮借ない歯車の間においたのであった。
 ヨーロッパの婦人たちが、民主平和のヨーロッパ再建のための連合国憲章にもとづいて、婦人たちの大統一戦線をこしらえはじめたこころもちは、同感される。第一次欧州大戦のあと、ヨーロッパ諸国の心ある人々が男も女も、平和の永続のために、どんなに苦心し、話し合い調和点を見出そうと努力しつづけて来ていたかということは知らないものはない。第一次大戦の惨禍は生きているものに、平和を警告しつづける記念物として、ヴェルダンの廃市に一望果ない戦死者墓地となってのこっていた。パリの華麗なシャン・ゼ・リゼのつき当りの凱旋門の中に、夜毎兵士に守られて燃えつづけていた戦死者記念常夜燈に、平和は求め叫ばれつづけていた。
 二十五年めに、ナチス・ドイツの乱暴な侵略で第二の大戦がはじまったとき、民主国の男女…

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