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ほうき一本
ほうきいっぽん
作品ID3275
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十五巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日
初出「アカハタ」1948(昭和23)年1月8日号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2003-09-20 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 十二月二十六日の午後、毎日新聞社から電話がかかって来た。そして、経済安定本部長官和田博雄が、二十三年度の勤労者のための経済白書を出したから、それについて意見をききたいということだった。わたしは経済について専門の知識はない。だけれども、勤労者のための経済白書ということは奇妙だと思えた。七月に経済白書というものを発表して日本の生産経済の破産状態を告白した政府は、千八百円ベースをきめて、十一月には国民家計が三百円ほど黒字になるといった。ところが十一月には、あがった丸公につれてヤミまであがって、ヤミ買を拒絶した山口判事の死がつたえられた。勤労者のための、経済白書という言葉は、きょうのわたしたち人民の神経へは、つよく響いた。勤労者に白書を出して、青書や黒書はどういうひとたちに向って出しているのか、とききたい気もした。

 二十七日の朝、毎日新聞の記者が来た。そしてタイプで打ったミノ判二枚の「昭和二十三年の勤労者の家計について」という見出しで和田長官の名によって出されたメモのようなものを見せた。その内容をよくみれば、記者が勤労者家計白書だといったのは、一つのハッタリであることがわかった。和田長官は、大体次のようなことをその文章でいっている。二十二年度の勤労者家計が、前より「二〇%前後改善されていることが推測できる」そして二十三年度は「工業生産が三〇%程度の増加を期待される。生産の増加が勤労者の生活内容を改善する根本的な要素であるとすれば、三〇%の生産増加が勤労者家計を相当程度に緩和することは予想できる」生活の苦しさを解決するには「生産の復興が根本である」「二十三年をこのような復興計画の第一年としたい」と。生産復興しか日本の破滅を、救うものがないということを、一番よく知っているのは勤労者自身である。みんなは、その復興がなぜこんなに進まないのかという原因について研究し、資本家のサボタージュや、生産資材の隠退蔵に重大な原因を発見した。対日理事会でも、この点はつよく指摘されている。国会で隠退蔵物資特別調査委員会が出来たことは、政府も権力をもちつづけようとするためには、安定本部の理論数字で現実はごまかしきれないことを認めて来た証拠である。
 この「昭和二十三年の勤労者の家計について」を読んでみると非常に変なところがいく個所かある。先ずはじめの方に「賃金は月々に上昇し一年間にほとんど三倍以上になった。しかしそれと同時にヤミ価格も急激に上昇し、同じように一年間に三倍の上昇である」といわれている。こういわれると私たちは実に変な気がする。家計の苦しさは、千八百円ベースがあるのに丸公がずっと上昇したところにある。丸公の配給を円滑にして千八百円ベースでやってゆけば十一月には黒字が出る、という理論数字が政府からあんなにくりかえし示された。ところが、配給はそれで食べてゆかれないことはこれまでど…

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