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石清虚
せきせいきょ
著者
文字遣い旧字旧仮名
底本 「國木田獨歩全集 第四巻」 学習研究社
1966(昭和41)年2月10日
初出『東洋畫報』第一巻第五號、1903(明治36)年7月3日
入力者小林徹
校正者しず
公開 / 更新1999-06-22 / 2014-09-17
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 雲飛といふ人は盆石を非常に愛翫した奇人で、人々から石狂者と言はれて居たが、人が何と言はうと一切頓着せず、珍しい石の搜索にのみ日を送つて居た。
 或日近所の川に漁に出かけて彼處の淵此所の瀬と網を投つて廻はるうち、ふと網に掛つたものがある、引いて見たが容易に上らないので川に入つて探り試みると一抱もありさうな石である。例の奇癖は斯いふ場合にも直ぐ現はれ、若しや珍石ではあるまいかと、抱きかゝへて陸に上げて見ると、果して! 四面玲瓏、峯秀で溪幽に、亦と類なき奇石であつたので、雲飛先生涙の出るほど嬉しがり、早速家に持ち歸つて、紫檀の臺を造え之を安置した。
 靈なる哉この石、天の雨降んとするや、白雲油然として孔々より湧出で溪を越え峯を摩する其趣は、恰度窓に倚つて遙かに自然の大景を眺むると少も異らないのである。
 權勢家某といふが居て此靈妙を傳へ聞き、一見を求に來た、雲飛は大得意でこれを座に通して石を見せると、某も大に感服して眺て居たが急に僕に命じて石を擔がせ、馬に策つて難有うとも何とも言はず去つてしまつた。雲飛は足ずりして口惜がつたが如何することも出來ない。
 さて某は僕を從へ我家をさして歸る途すがら曩に雲飛が石を拾つた川と同流に懸つて居る橋まで來ると、僕は少し肩を休める積りで石を欄干にもたせて吻と一息、思はず手が滑つて石は水煙を立て河底に沈んで了つた。
 言ふまでもなく馬を打つ策は僕の頭上に霰の如く落ちて來た。早速金で傭はれた其邊の舟子共幾人は魚の如く水底を潛つて手に觸れる石といふ石は悉く岸に拾ひ上られた。見る間に何十個といふヘボ石の行列が出來た。けれども靈妙なる石は遂に影をも見せないので流石の權勢家も一先搜索を中止し、懸賞といふことにして家に歸つた。懸賞百兩と聞て其日から河にどぶん/\飛込む者が日に幾十人さながらの水泳場を現出したが何人も百兩にあり着くものは無つた。
 雲飛は石を奪はれて落膽し、其後は家に閉籠つて外出しなかつたが、石が河に落て行衞不明になつたことを傳へ聞き、或朝早く家を出で石の落ちた跡を弔ふべく橋上に立て下を見ると、河水清徹、例の石がちやんと目の下に横はつて居たので其まゝ飛び込み、石を懷て濡鼠のやうになつて逃るが如く家に歸つて來た。最早〆たものと、今度は客間に石を置かず、居間の床に安置して何人にも祕して、只だ獨り樂んで居た。
 すると一日一人の老叟が何所からともなく訪ねて來て祕藏の石を見せて呉れろといふ、イヤその石は最早他人に奪られて了つて久しい以前から無いと謝絶つた。老叟は笑つて客間にちやんと据えてあるではないかといふので、それでは客間に來て御覽なさい決して有りはしないからと案内して内に入つて見ると、こは如何に、居間に隱して置いた石が何時の間にか客間の床に据てあつた。雲飛は驚愕して文句が出ない。
 老叟は靜かに石を撫でゝ、『我家の石が久く行方知ずに…

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