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獄中への手紙
ごくちゅうへのてがみ
副題06 一九三九年(昭和十四年)
06 せんきゅうひゃくさんじゅうきゅうねん(しょうわじゅうよねん)
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年10月20日
入力者柴田卓治
校正者花田泰治郎
公開 / 更新2004-09-24 / 2014-09-18
長さの目安約 756 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 一月一日 〔豊島区西巣鴨一ノ三二七七巣鴨拘置所の宮本顕治宛 四谷区西信濃町慶応義塾大学病院内い号の下より(封書)〕

 一月一日  第一信。
 あけましてお目出とう。今年もまたいい一年を暮しましょうね。
 ずっと順調で熱もきのうきょうは朝五・九分位、夜六・八どまりの有様です。このようになおりかかって来ると傷口の大小が決定的に影響して、一寸足らずの傷であるありがた味がよくわかります。傷そのものの不便さはもう殆ど感じません。ただ腹帯をたっぷりかたくまいているのでおなかがかたくって、曲りかがみに大不便です。上体を一寸捩るような形はまだ妙に筋がつれて出来ませんがベッドから下りたり上ったりすっかり自分の力でやれます。きょうから少々歩き初めです。一日に三四度往復十間位のところを歩くようになりました。これで三四日して入浴出来るようになって、もっと足がしっかりしたら全快ですね。傷が大きいと、表面だけ癒ったようで内部はよくついていないことがあり、退院後に又深いところで苦情が生じたりする危険があるそうですがこう小さい傷だと、内からちゃんとまとまり易いから大助り。
 今は椅子にかけ、小テーブルに向ってこの手紙を書いて居るところです。咲枝がお年玉にこしらえてくれた黄色いミカンのようなドテラを着て、きのう稲子さんがもって来てくれた綺麗な綺麗なチューリップの植込みを眺めつつ。しかもこのテーブル(枕頭台から引出すようになったの)の上にはお供えが一つあってね、丸く二つ重った形を、そして、上のところに、ちょいと松竹梅の飾りをつけた形を臥ながら横から見ると、まるで私のようなの。随分似ている、似ている、と笑っていたらけさになって榊原さんが、そのお供えの、丁度おなかのでっぱりのところに、小さい絆創膏を十文字に貼りつけました。上出来の傷のお祝に。そしたら、お供えは俄然生色を帯びて、まるで生きもののように表情的になって、うれしいようなきまりわるいような様子をして、お盆の上にのって居ります。こんなところらしい冗談があるものね、感心しました。
 先生たちは元旦でも出て来て、明日入浴してよいということになりました。初めて普通の御飯をおひるにたべて、実に外科の仕事は、バイキンさえ入らず、体質異状がないと早いものですね。
 あなたの名、私の名、新しい筆で大晦日の夜お祝箸の袋の上にかいて、先ずあなたのから食べ初めいたしました。ちょうど十九日に自分で買って来てありました。島田の方でもこういうのを使うでしょうか。[#挿絵]模様は羽根に手まりに梅の花。金色と赤の水引の色。模様が大変女の子らしいので、あなたのお名前は何だかいかにも、マアお正月だから仲間に入って遊んでやろうというようです。
 明日壺井さん夫妻が見えるそうです。そして四日には繁治さんが久しぶりでそちらにゆく由です。
 目白はおひささんが二十六日にかえりまし…

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