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獄中への手紙
ごくちゅうへのてがみ
作品ID33189
副題07 一九四〇年(昭和十五年)
07 せんきゅうひゃくよんじゅうねん(しょうわじゅうごねん)
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十一巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年3月20日
「宮本百合子全集 第二十巻」 新日本出版社
1979(昭和54)年10月20日
入力者柴田卓治
校正者花田泰治郎
公開 / 更新2004-10-01 / 2016-02-03
長さの目安約 582 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 一月二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 一月二日  第一信
 さて、あけましておめでとう。除夜の橿原神宮の太鼓というのをおききになりましたか? 私たち(この内容は後出)は銀座からすきや橋に向って来た左角にある寿司栄の中でききました。
 おだやかに暖い暮でしたが、正月になったら、きのうは風、きょうは又大層寒いこと。私は羽織を二枚着て居る有様です。
 ずっとお元気? かぜは? 私のズコズコも悪化しない代り少々万年で。でも、実に吉報があります。それはね、島田から送って下すった炭が十俵無事三十日夜到着。私どもはワーッというよろこびかたで、もうこれで正月になった、という次第でした。うれしいでしょう、何てうれしいのでしょう。ですからきっと私のズコズコもなおるでしょう。佐藤さんのところでお年よりもいられて炭なしに閉口故、一俵あげました。佐藤さんフロシキを頭からかぶってかついで行った。この頃の良人にはこんな役もふえて来て居ります。
 いろんなことが押しつまってあってね、三十日にフヂエが無断帰還を敢行、つまり逃げました。可笑しいでしょう? 二十八日の夜中会から速達が来ました。二十九日目をさまして何かときいたら、おふくろさんがかぜをひいたからかえってくれと云って来た由。東京で三十、三十一日はどんな日だか分っているのだから、私はおこってね、正月二日にかえっていいから三十日三十一日はいてくれなければ困ると云ったら(ことをわけて云ったから)何とも尤もで、では一寸かえってそのことを云って来ますというわけで、私はそのまま外出。タカちゃんに晩かえりますと云って出ました。私は図書館へ開いていたらゆくつもり。そしたら二十六日に終っている。がっかりして午後早くかえって来て、二人で夕飯たべて、さて十時頃になって、どうしたろうと戸棚みたら包ナシ。ハハアと大笑いしたり、ふんがいしたり派出婦根性をおどろいたり。
 タカちゃんは却っていん方がのんきな、というから、では二人でやって、若い小さい娘でもタカちゃんがいれば一人でなくていいから、たのもうというわけに納りました。タカちゃんもゆっくりした気になって島田でやっていたとおりよく働いてくれて、本当にいい娘です。
 三十日は夕方、佐藤さん夫妻と戸塚へゆき、おそくまで久しぶりに喋って遊んで来ました。いねちゃん二十九日にかえったの。健造たちのうれしい顔ったら! 何てうれしそうなんだろう、顔にウレシイとかいてある、と私が云うと、とろけそうな顔に笑って、体をよじっている。その稲ちゃんのところで又一人にげられたの、可笑しいでしょう、二人小さい女の子がいた上の方が、姉娘。よくない娘だったからまアいいのですって。皆、暮から正月へ荒っぽい金がほしいのね。派出婦なんかきっと三十日から三箇日ぐらいやとわれて、ガタガタやって、よけいに金をとるというわけなのでしょう…

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