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獄中への手紙
ごくちゅうへのてがみ
副題11 一九四四年(昭和十九年)
11 せんきゅうひゃくよんじゅうよねん(しょうわじゅうくねん)
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第二十二巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年1月20日
入力者柴田卓治
校正者花田泰治郎
公開 / 更新2005-03-26 / 2014-09-18
長さの目安約 351 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 一月二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

   初春景物
笹の根に霜の柱をきらめかせ
  うらら冬日は空にあまねし

 こういう奇妙なものをお目にかけます。うたよりも封筒をさしあげたいからよ。[自注1]かいた手紙は厚すぎて入らず。
 二日

[自注1]封筒をさしあげたいからよ。――この手紙は日本風の巻紙に毛筆でぱらりと書かれている。歌の行を縫って検閲の小さい赤い印がちらされている。封筒は正月らしい色どりで若松に折り鶴が刷られたもの。

 一月二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕

 一月二日
 あけましておめでとう。ことしの暮はめずらしい暮でした。従っていいお正月となりました。そちらも? でも、大笑いして居ります。餅のような、という言葉は、子供の頬や女のふくよかな白いなめらかさに形容されて、日本にしかない表現でした。美しくて愛くるしい表現でした。ところが、もし今年の餅になぞらえて、あなたはほんとにおもちのようよと云われたらそのひとは、どんな返事が出来るでしょう、と。こんなにブツブツでうすくろくて、愛嬌がなくて。餅もそうなっているというところに、何ともいえないいじらしさはあるにしてもね。憐憫と、うれしい愛くるしさとは別のものですもの。
 ことしは、大分わたしの意気込みがあって、大晦日には二階はちゃんと煤もはき、よく拭き、御秘蔵の黒釉の朝鮮壺には独特の流儀に松竹梅をさしました。そして壁にはこれも御秘蔵のドガのデッサンの複製をかけました。赤っぽいものは机の上の飾皿だけです。なかなかさっぱりときれいです。花はこれを書いている左隅の障子際においている白木の四角い書類入箱の上にのって居ます。今坐って居りますが、七日ごろになったら久しぶりで机の高い方を出して腰かけにします。
 元旦から今年の計画に着手して、なるたけわたしは自分の部屋暮しを実行いたします。日記もつけ出しました。こんな暮しの中では一日にどんな勉強したか、何をしたか、一日ずつちゃんと見てゆくのも大事です。今年本やに日記というものがありません。日本出版会は日記の統制もやって、従来の日記はつくらないのだそうです。わたしは十六年の日記を出して、つけます。曜日が三日ずっているのよ。これを当にして、とんちんかんをやって、叱られやしないかと実は苦笑している次第です。
 何がどうあろうと私は何となしに元気を感じ、新しい暮しかた、勉強を期待して、きちんとした気分の正月です。どうしてだろう、と考えます。こんな瑞々とした愉しさのたたえられたお正月の気分というのは。新しい年がおとずれる、というでしょう? 新年になった、というのと、年が新しくおとずれた、というのと、心持はちがうものなのね。大変ちがうものなのね。わたしのところには年が新しくおとずれたと思います。支那の昔の女の詩人のうたではないけれど、南に…

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