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宝島
たからじま
作品ID33206
副題02 宝島
02 たからじま
著者スティーブンソン ロバート・ルイス
翻訳者佐々木 直次郎
文字遣い新字新仮名
底本 「宝島」 岩波文庫、岩波書店
1935(昭和10)年10月30日
入力者kompass
校正者伊藤時也
公開 / 更新2009-09-06 / 2014-09-21
長さの目安約 388 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

[#挿絵]
[#改ページ]



買うのを躊躇する人に


もしも船乗調子の船乗物語や、
 暴風雨や冒険、暑さ寒さが、
もしもスクーナー船や、島々や、
 置去り人や海賊や埋められた黄金や、
さてはまた昔の風のままに再び語られた
 あらゆる古いロマンスが、
私をかつて喜ばせたように、より賢い
 今日の少年たちを喜ばせることが出来るなら、
――それならよろしい、すぐ始め給え! もしそうでなく、
 もし勉強好きな青年たちが、
昔の嗜好を忘れてしまい、
 キングストンや、勇者バランタインや、
森と波とのクーパー(註一)を、もはや欲しないなら、
 それもまたよろしい! それなら私と私の海賊どもは、
それらの人や彼等の創造物の横る
 墳墓の中に仲間入りせんことを!
[#改丁]

第一篇 老海賊


第一章「ベンボー提督屋」へ来た老水夫

 大地主のトゥリローニーさんや、医師のリヴジー先生や、その他の方々が、私に、宝島についての顛末を、初めから終りまで、ただまだ掘り出してない宝もあることだから島の方位だけは秘して、すっかり書き留めてくれと言われるので、私は、キリスト紀元一七――年に筆を起し、私の父が「ベンボー提督屋(註二)」という宿屋をやっていて、あのサーベル傷のある日に焦けた老水夫が、初めて私たちの家に泊りこんだ時まで、溯ることにする。
 私は、彼が、船員衣類箱(註三)を後から手押車で運ばせながら、宿屋の戸口のところへのそりのそりと歩いて来た時のことを、まるで昨日のことのように覚えている。背の高い、巌乗な、どっしりした、栗色の男だった。タールまみれの弁髪がよごれた青い上衣の肩に垂れていた(註四)。手は荒れて傷痕だらけで、黒い挫けた爪をしていた。そしてサーベル傷が片頬にきたなく蒼白くついていた。私はまた覚えている。彼は入江を見[#挿絵]し、そうしながらひとりで口笛を吹いていたが、それから突然、その後もたびたび歌ったあの古い船唄を歌い出したのだった。――

「死人箱にゃあ十五人――
  よいこらさあ、それからラムが一罎と!(註五)」

 揚錨絞盤の梃を[#「梃を」は底本では「挺を」][#挿絵]すのに調子を合せて歌って嗄らしたらしい、高い、老いぼれたよぼよぼの声だった。それから彼は持っていた木挺のような[#「木挺のような」はママ]棒片で扉をこつこつと叩き、私の父が出ると、ぶっきらぼうにラム酒を一杯注文した。それを持ってゆくと、彼は、酒の品評家のように、ちびりちびりと味いながらゆっくり飲み、その間も、あたりの断崖を見[#挿絵]したり店の看板を見上げたりしていた。
「これぁ便利な入江だ。」とようやく彼は言い出した。「この酒屋も気の利いた処にあるな。客は多いかね、大将?」
 父は、いや、残念ながら客はごく少くてどうも、と彼に言った。
「うむ、そうか、」と彼は言った。「じゃあ己にゃ持…

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