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赤い玉
あかいたま
作品ID33207
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日
入力者鈴木厚司
校正者佳代子
公開 / 更新2005-01-12 / 2014-09-18
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 これも大国主命が、八千矛をつえについて、国々をめぐって歩いておいでになる時のことでした。ある時摂津国の難波の津までおいでになりますと、見慣れない神さまが、海を渡って向こうからやって来ました。命が、
「あなたはだれです。」
 とお聞きになりますと、その神さまは、
「わたしは新羅の国からはるばる渡って来た天日矛命というものです。どうぞこの国の中で、わたしの住む土地を貸して頂きたい。」
 と頼みました。命はしばらく考えておいでになりましたが、
「この国はわたしの治めている土地で、あなたに貸して上げる場所といって、ほかにありません。では海の中を貸しましょう。」
 とおっしゃいました。
 こういわれて、天日矛命は、困って帰って行くかと思いのほか、
「では海を拝借いたします。」
 といって、腰につるした剣を抜いて、海の水をかき回しますと、みるみるそこへりっぱな御殿が出来上がりました。大国主命はそれをごらんになると、
「これはなかなかえらい神だ。用心をしなければならない。」
 と思って、家来にいいつけて摂津国を固くお守らせになりました。

     二

 さてこの天日矛命というのは、もと新羅の国の王子でした。それがどうして日本へ渡って来て、こちらに住むようになったか、それにはこういうお話があります。
 新羅の国の阿具沼という沼のそばで、ある日一人の女が昼寝をしておりました。するとふしぎにも日の光が虹のようになって、寝ている女の体にさし込みました。
 すると間もなく女は身持ちになって、やがて赤い玉を一つ生み落としました。ちょうど女の寝ていた時、そばを通りかかって様子を見ていた一人の百姓が、はじめからふしぎに思って、どうなるかと気をつけていましたが、女が赤い玉を生んだのを見て、それをもらって帰りました。
 この百姓は谷の間に田を作っていました。ある日そこで働いている男たちの食べ物を牛に背負わせて運んで行きますと、ふと王子の天日矛に途中で出会いました。王子は百姓が人通りのない谷奥へ牛を引いて行くのを妙に思って、
「これこれ、牛を引いてどこへ行くのだ。谷底の人のいない所で、殺して食べるつもりだろう。」
 といいながら、百姓をつかまえて、牢屋へ連れて行こうとしました。
「いいえ、わたくしはこの牛に、百姓たちの食べ物を積んで引いて行くだけで、けっして殺して食べるのではありません。」
 といいました。けれども王子はうそだといって、なかなか聴いてくれませんので、百姓はしかたなしに、もらった赤い玉を出して、王子にやって、やっと放してもらいました。
 王子がその玉をうちへ持って帰って、床の間に飾っておきますと、その晩、赤い玉が急に一人の美しい娘になりました。王子はその娘を自分のお嫁にもらいました。
 そのお嫁さんは、毎日いろいろとめずらしいごちそうをこしらえて、王子に食べ…

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