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安達が原
あだちがはら
作品ID33208
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-10-29 / 2014-09-18
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 むかし、京都から諸国修行に出た坊さんが、白河の関を越えて奥州に入りました。磐城国の福島に近い安達が原という原にかかりますと、短い秋の日がとっぷり暮れました。
 坊さんは一日寂しい道を歩きつづけに歩いて、おなかはすくし、のどは渇くし、何よりも足がくたびれきって、この先歩きたくも歩かれなくなりました。どこぞに百姓家でも見つけ次第、頼んで一晩泊めてもらおうと思いましたが、折あしく原の中にかかって、見渡す限りぼうぼうと草ばかり生い茂った秋の野末のけしきで、それらしい煙の上がる家も見えません。もうどうしようか、いっそ野宿ときめようか、それにしてもこうおなかがすいてはやりきれない、せめて水でも飲ましてくれる家はないかしらと、心細く思いつづけながら、とぼとぼ歩いて行きますと、ふと向こうにちらりと明りが一つ見えました。
「やれやれ、有り難い、これで助かった。」と思って、一生懸命明りを目当てにたどって行きますと、なるほど家があるにはありましたが、これはまたひどい野中の一つ家で、軒はくずれ、柱はかたむいて、家というのも名ばかりのひどいあばら家でしたから、坊さんは二度びっくりして、さすがにすぐとは中へ入りかねていました。
 すると中では、かすかな破れ行灯の火かげで、一人のおばあさんがしきりと糸を繰っている様子でしたが、その時障子の破れからやせた顔を出して、
「もしもし、お坊さま、そこに何をしておいでだえ。」
 と声をかけました。
 出し抜けに呼びかけられたので、坊さんは思わずぎょっとしながら、
「ああ、おばあさん。じつはこの原の中で日が暮れたので、泊る家がなくって困っている者です。今夜一晩どうかして泊めては頂けますまいか。」
 といいました。
 するとおばあさんは、
「おやおや、それはお困りだろう。だがごらんのとおり原中の一軒家で、せっかくお泊め申しても、着てねる布団一枚もありませんよ。」
 とことわりました。
 坊さんはおばあさんがそういう様子の親切そうなのに、やっと安心して、
「いえいえ、雨露さえしのげばけっこうです。布団なんぞの心配はいりませんから、どうぞお泊めなすって下さい。」
 と頼みました。
 おばあさんはにこにこ笑いながら、
「まあまあ、そういうわけなら、御不自由でも今夜は家に上がってゆっくり休んでおいでなさい。」
 といって、坊さんを上へ上げてくれました。
 坊さんは度々お礼をいいながら、わらじをぬいで上へ上がりました。おばあさんは、囲炉裏にまきをくべて、暖かくしてくれたり、おかゆを炊いてお夕飯を食べさせてくれたり、いろいろ親切にもてなしてくれました。それで坊さんも、見かけによらないこれはいい家に泊り合わせたと、すっかり安心して、くり返しくり返しおばあさんにお礼をいっていました。
 お夕飯がすむと、坊さんは炉端に座って、たき火にあたりながら、いろ…

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