えあ草紙・青空図書館 - 作品カード


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白い鳥
しろいとり
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-10-29 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     一

 むかし近江国の余呉湖という湖水に近い寂しい村に、伊香刀美というりょうしが住んでおりました。
 ある晴れた春の朝でした。伊香刀美はいつものようにりょうの支度をして、湖水の方へ下りて行こうとしました。その途中、山の上にさしかかりますと、今までからりと晴れ上がって明るかった青空が、ふと曇って、そこらが薄ぼんやりしてきました。「おや、雲が出たのか。」と思って、あおむいて見ますと、ちょうど伊香刀美の頭の上の空に、白い雲のようなものがぽっつり見えて、それがだんだんとひろがって、大きくなって、今にも頭の上に落ちかかるほどになりました。
 伊香刀美はふしぎに思って、
「何だろう、雲にしてはおかしいなあ。」
 と独り言をいいながら、じっと白いものを見つめていますと、それは伊香刀美の頭の上をすうっと流れるように通りすぎて、だんだん下へ下へと、余呉湖の方へと下って行きます。やがてきらきらと、湖の上に輝きだした春の日をあびて、ふわりふわり落ちて行く白いものの姿がはっきりと見えました。それは八羽の白鳥が雪のように白い翼をそろえて、静かに舞い下りて行くのでありました。伊香刀美はびっくりして、
「ほう、えらい白鳥だ。」
 といいながら、我を忘れてけわしい坂道を夢中で駆け下りて、白鳥を追い追い湖の方へ下りて行きました。やっと湖のそばまで来ましたが、もう白鳥はどこへ行ったか姿は見えませんでした。伊香刀美はすこし拍子抜けがして、そこらをぼんやり見回しました。すると水晶を溶かしたように澄みきった湖水の上に、いつどこから来たか、八人の少女がさも楽しそうに泳いで遊んでいました。
 少女たちは世の中に何にもこわいことのないような、罪のない様子で、きれいな肌を水の中にひたしていました。伊香刀美は「あッ。」といったなり、見とれてそこに立っていました。するとどこからともなくいい香りが、すうすうと鼻の先へ流れてきました。そして静かな松風の音にまじって、さらさらと薄い絹のすれ合うような音が、耳のはたで聞こえました。
 気が付いて伊香刀美が振り返ってみますと、すぐうしろの松の木の枝に、ついぞ見たこともないような、美しい真っ白な着物が掛けてありました。伊香刀美はふしぎに思って、そばへ寄ってみますと、美しい着物はみんなで八枚あって、それは鳥の翼をひろげたようでもあり、長い着物のすそをひいたようでもありました。それがかすかな風に吹かれては、音を立てたり、香りを送ったりしているのです。
 伊香刀美はその着物がほしくなりました。
「これはめずらしいものだ。きっとさっきの白い鳥たちがぬいで行ったものに違いない。するとあの八人の少女たちは天女で、これこそ昔からいう天の羽衣というものに違いない。」
 こう独り言をつぶやきながら、そっと羽衣を一枚取り下ろして、うちへ持って帰って、宝にしようと思いました。でも水の中…

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