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忠義な犬
ちゅうぎないぬ
作品ID33211
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-10-29 / 2014-09-18
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 むかし陸奥国に、一人のりょうしがありました。毎日犬を連れて山の中に入って、猪や鹿を追い出しては、犬にかませて捕って来て、その皮をはいだり、肉を切って売ったりして、朝晩の暮らしを立てていました。
 ある日りょうしはいつものように犬を連れて山に行きましたが、どういうものか、その日は獲物が一向にありません。そこで心をいらだたせながら、ついうかうか、獲物を探していくうちに、だんだん奥へ、奥へと入っていって、そのうちにとっぷり日が暮れてしまいました。
 こう山奥深く入っては、もう今更引っ返して、うちへ帰ろうにも帰れなくなりました。仕方がないので、今夜は山の中に野宿をすることにきめました。一本の大きな木の、うつろになった中に入って、犬どもを木のまわりに集めて、たくさんたき火をして、その晩は眠ることにしました。するうちつい昼間の疲れが出て、人も犬も眠るともなく、ぐっすり寝込んでしまいました。

     二

 ふと夜中になって、けたたましく犬の鳴き立てる声がしました。驚いてりょうしは目を覚ましました。ぼんやり消え残っているたき火の明りに透してみますと、中でいちばん賢い、獲物を捕ることの上手な犬が、火のまわりをぐるぐる回りながら、気違いのようになってほえ立てていました。りょうしは何事が起こったのかと思って、山刀を持って飛び出して、そこらを見回りました。けれども、何もそこにはほえ立てるような怪しいものの、影も形も見えませんでした。ほかの犬たちも目を覚まさせられて、いっしょにわんわんほえながら、これもやはり獲物をかぎ回っていましたが、何も見つからないので、すごすご、しっぽを振ってもどって来ました。
 その中でも、さっきの犬は、あいかわらず気違いのようにほえ回って、主人のすそを引っ張るやら、背中に飛びつくやら、たいそうらんぼうになって、しまいには今にもかみつくかと思うように、はげしく主人にほえかかりました。だんだん、その様子がおそろしくなるので、りょうしも気味が悪くなりました。刀を抜いておどしますと、犬はなおなおはげしく狂い回って、りょうしの振り上げる刀の下をくぐって、いきなりその胸に飛びつきました。りょうしはびっくりして、思わず犬をつき放して、振り上げていた刀で、犬の首を切り落としてしまいました。山の中があんまり寂しいので、気が変になって、犬が狂い出したのだと、りょうしは思ったのでしょう。
 ところが驚いたことには、切られた犬の首は、いきなり飛び上がって、りょうしの眠っていた頭の上の木の枝にかみつきました。すると暗やみの中から、うう、うう、とうなるようなものすごい声が聞こえました。やがてばっさりと、まるで大木でも倒れたような音がして、何か上から大きなものが落ちてきました。りょうしは驚いて、火をともしてよく見ますと、四五間もありそうな長さのおそろしい大蛇が、と…

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