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人馬
ひとうま
作品ID33213
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日
入力者鈴木厚司
校正者土屋隆
公開 / 更新2006-11-16 / 2014-09-18
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 むかし、三人の坊さんが、日本の国中を方々修行して歩いていました。四国の島へ渡って、海ばたの村を托鉢して歩いているうちに、ある日いつどこで道を間違えたか、山の中へ迷い込んでしまいました。行けば行くほどだんだん深い深い山道に迷い込んで、どうしてももとの海ばたへ出ることができません。そのうちにだんだん日が暮れてきて、足もとが暗くなりました。気をあせればあせるほどよけい道が分からなくなって、とうとう人の足跡のない深い山奥の谷の中に入り込んでしまいました。もう道のない草の中をやたらに踏み分けて行きますと、ひょっこり平らな土地へ出ました。よく見ると、人の家の垣根らしいものがあって、中には人が住んでいるようですから、坊さんたちは地獄で仏さまに会ったようによろこんで、ずんずん中へ入ってみますと、なるほど一軒そこに家がありました。
 でもよく考えてみると、こんな人の匂いもしそうもない深い山奥にだれか住んでいるというのがふしぎなことですから、きっと人間ではない、鬼が化けたのか、それともきつねかたぬきかが化かすのではないかと思って、少し気味が悪くなりました。けれど何しろくたびれきって一足も歩けない上に、おなかがすききっているものですから、もう鬼でも化け物でもかまわない、とにかく休ませてもらおうと思って、その家の戸をとんとんたたきました。
 すると中から「だれだ。」といって、六十ばかりのおじいさんの坊さんが出て来ました。何だかこわらしい、食いつきそうな顔をした坊さんでしたけれど、今更どうにもならないと思って、三人は上へ上がりました。するとあるじの坊さんは、
「お前さんたちはおなかがへったろう。」
 といって、ごちそうをお盆にのせて出してくれました。ごちそうは大へんうまかったし、あるじの様子も顔に似合わず親切らしいので、三人はすっかり安心して、食べたり飲んだりしていました。
 夕飯がすんでしまうと、あるじの坊さんは手をならして、
「これこれ。」
 と呼びますと、もう一人のやはりこわらしい顔をした坊さんが出て来ました。
 何をいうかと思うと、
「御飯がすんだから、いつもの物を持っておいで。」
 といいつけました。坊さんはうなずいて出ていきました。いったい「いつものもの」というのは何だろうと、三人は物めずらしさが半分に、気味悪さが半分で、何が出るかと待ちうけていますと、やがてさっきの坊さんが、大きな馬のくつわと、太いむちを持って戻って来ました。するとあるじはまた、
「それ、いつものとおりにやれ。」
 といいつけました。
「何をするのか。」と思っていますと、もう一人の坊さんは、いきなりそこに座っている三人のうちの一人をそれは軽々と、かごでもつるすようにつるし上げて、庭にほうり出しました。そして持って来たむちでその背中をつづけざまに五十たび打ちました。坊さんはぶたれながら、…

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