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三輪の麻糸
みわのあさいと
作品ID33215
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-10-31 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




     一

 むかし神代のころに、大国主命の幸魂、奇魂の神さまとして、この国へ渡っておいでになった大物主命は、後に大和国の三輪の山におまつられになりました。さて、その山を三輪山というについて、こういうお話が伝わっています。
 ある時大和国に、活玉依姫という大そう美しいお姫さまがありました。
 この活玉依姫の所へ、ふとしたことから、毎晩のように、大そう気高いりっぱな若者が、いつどこから来るともなくたずねて来ました。そのうちに、とうとう若者は、お姫さまのお婿さんになりました。
 間もなくお姫さまには子供が生まれそうになりました。ところで、そのお婿さんははじめから、夜おそく来ては、夜の明けないうちに、いつ帰るともなく帰ってしまうので、お姫さまのほかには、だれもその顔を見知ったものもありませんし、どこのだれだということは、お姫さますら知りませんでした。

     二

 お姫さまのおとうさまとおかあさまは、ふしぎに思って、どうかしてそのお婿さんの正体を見届けたいと思いました。そこである日お姫さまに向かって、
「今夜お婿さんの来る前に、部屋にいっぱい赤土をまいてお置き。それから麻糸を針にとおしておいて、お婿さんの帰るとき、そっと着物のすそにさしてお置き。」
 といいつけました。
 お姫さまはその晩いいつけられたとおり、大きな麻糸の玉をお婿さんの着物のすそに縫いつけておきました。
 あくる朝見ると、麻糸の先は針がついたまま戸の鍵穴を抜けて、外へ出ていました。そして麻糸が引かれるにつれて、糸巻はくるくるとほぐれて、もう部屋の中にはたった三まわり、輪になっただけしか、糸は残っていませんでした。
 お婿さんが戸の鍵穴から出て行ったことが、これで分かりましたから、お姫さまはその糸をたぐりたぐり、どこまでもずんずん行ってみますと、糸はおしまいに三輪山のお社の中に入って、そこで止まっておりました。
 それではじめてお婿さんが大物主命でいらっしゃったことが分かりました。そして糸が三輪あとに残っていたので、その山をも三輪山と呼ぶようになりました。



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