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中国怪奇小説集
ちゅうごくかいきしょうせつしゅう
作品ID33218
副題02 開会の辞
02 かいかいのじ
著者岡本 綺堂
文字遣い新字新仮名
底本 「中国怪奇小説集」 光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日
入力者tatsuki、門田裕志
校正者もりみつじゅんじ、小林繁雄
公開 / 更新2003-09-15 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 青蛙堂は小石川の切支丹坂、昼でも木立ちの薄暗いところにある。広東製の大きい竹細工の蝦蟆を床の間に飾ってあるので、主人みずから青蛙堂と称している。蝦蟆は三本足で、支那の一部に崇拝される青蛙神を模造したものである。
 この青蛙堂の広間で、俳句や書画の会が催されることもある。怪談や探偵談などの猟奇趣味の会合が催されることもある。ことしの七月と八月は暑中休会であったが、秋の彼岸も過ぎ去った九月の末、きょうは午後一時から例会を開くという通知を受取ったので、あいにくに朝から降りしきる雨のなかを小石川へ出てゆくと、参会者はなかなかの多数で、いつもの顔触れ以外に、男おんなをまぜて新しい顔の人びとが十人あまりも殖えていた。
 主人からそれぞれに紹介されて、例のごとくに茶菓が出る。来会者もこれで揃ったという時に、青蛙堂主人は一礼して今日の挨拶に取りかかった。
「例会は大抵午後五時か六時からお集まりを願うことになって居りますが、こんにちはお話し下さる方々が多いので、いつもよりも繰り上げて午後一時からおいでを願った次第でございます。そこで、こんにちの怪談会はこれまでと少しく方針をかえまして、すべて支那の怪奇談を主題に致したいと存じます。しかし、支那のことはわたくしも何分不案内でございますので、その方面に詳しい方々に御出席をねがいまして、順々におもしろいお話を聞かせていただく筈でございますから、左様御承知を願います」
 きょうの席上に新しい顔の多い子細もそれで判った。主人はつづいて言った。
「支那の怪奇談と申しましても、ただ漫然と怪談を語るのも無意義であるというお説もございますので、皆様がたにお願い申しまして、遠くは六朝時代より近くは前清に至るまでの有名な小説や筆記の類に拠って、時代を趁って順々に話していただくことに致しました。ともかくもこれに因って、支那歴代の怪奇小説、いわゆる〈志怪の書〉がどんなものであるかということを御会得くだされば、こんにちの会合もまったく無意義でもなかろうかと存じます。
 さらに一言申し添えて置きたいと存じますのは、それらの〈志怪の書〉が遠い昔から我が国に輸入されまして、わが文学や伝説にいかなる影響をあたえたかということでございます。かの『今昔物語』を始めとして、室町時代、徳川時代の小説類、ほとんどみな支那小説の影響を蒙っていない物はないと言ってもよろしいくらいで、わたくしが一々説明いたしませんでも、これはなんの翻案であるか、これはなんの剽窃であるかということは、少しく支那小説を研究なされた方々には一目瞭然であろうと考えられます。甚だしきは、歴史上実在の人物の逸事として伝えられていることが、実は支那小説の翻案であったというような事も、往々に発見されるのでございます。
 そんなわけでありますから、明治以前の文学や伝説を研究するには、どうしても先ず隣邦の支那小…

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