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大使館の始末機関
たいしかんのしまつきかん
副題――金博士シリーズ・7――
――きんはかせシリーズ・しち――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第10巻 宇宙戦隊」 三一書房
1991(平成3)年5月31日
初出「新青年」1941(昭和16)年11月
入力者tatsuki
校正者門田裕志
公開 / 更新2009-11-08 / 2014-09-21
長さの目安約 21 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     1


 ずいぶんいい気持で、兵器発明王の金博士は、豆戦車の中に睡った。
 睡眠剤の覚め際は、縁側から足をすとんと踏み外すが如く、極めてすとん的なるものであって、金博士は鼾を途中でぴたりと停めたかと思うと、もう次の瞬間には、
「さて、この大使館では朝飯にどんな御馳走を出しよるかな」
 と、寝言ではない独り言をいった。
 博士が、年齢の割にかくしゃくたる原因は、一つは博士の旺盛なる食慾にあるといっていい。
 目の前に押釦が並んでいた。
 押釦というものは便利なもので、それを指で押すだけで、大概の用は足りてしまう。以前、博士のところへ、新兵器の技術を盗みに来た某国のスパイは、博士のところにあった押釦ばかり百種も集めて、どろんを極めたそうである。
 閑話休題、博士が、その押釦の一つを押すと、豆戦車の蓋がぽっかり明いた。博士はその穴から首を出して左右を見廻した。
「やあやあ、この豆戦車を明けようと思って、ずいぶん騒いだらしいぞ」
 この豆戦車は、某国大使館の一室に、えんこしているのであった。部屋の寝台は、片隅に押しつけられ、床には棒をさし込んで、ぐいぐい引張ったらしい痕もあり、スパンナーやネジ廻しや、アセチレン瓦斯の焼切道具などが散らばっていた。
「この大使館にも、余計な御せっかいをやる奴が居ると見える。これだから、旅に出ると、一刻も気が許せないて」
 そういいながらも、博士は別に愕いた様子でもなく、豆戦車からのっそりと外に出た。それからまた、もう一度豆戦車の中をのぞきこむようにして、押釦の一つをぷつんと押した。すると、がちゃがちゃと金属の擦れ合う賑かな音がしたかと思うと、その豆戦車はばらばらになり、やがてそのこまごました部分品や鋼鉄がひとりでに集ってきて、三つのトランクと変ってしまった。重宝な機械もあったものである。
 博士は、そのトランクを、部屋の隅に重ねて積み上げた。
 それから、もみ手をしながら、扉を開けて、階下へ下りていった。
 博士はずんずん食堂へ入っていった。
「おい、飯を喰わしてくれんか」
 食堂の衝立の蔭から、瞳の青い、体の大きい給仕がとびだしてきたが、博士を見ると、直立不動の姿勢をとって、
「あ、王水険先生のお客さまでいらっしゃいましたね。では、只今仕度をいたしますから、しばらくお待ちを……」
 といって、周章てて衝立のかげに引込んだ。
 金博士は、ぶうと鼻を鳴らして、窓ぎわに出た。広い庭園は、今は黄いろくなった芝生で蔽われ、ところどころに亭みたいなものがあるかと思うと、それに並んでタンクのようなものがあったり、なにか曰くのありそうな庭園であった。
「どうも半端な庭園じゃな。それにしても、王老師は、どうしていられるのか。おいおいボーイ君、王老師はまだこの大使館へ出勤せられないのか」
 金博士が、がなりつけるようにいうと、ひょっくり衝立か…

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