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宇宙の迷子
うちゅうのまいご
作品ID3354
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第11巻 四次元漂流」 三一書房
1988(昭和63)年12月15日
初出「少年クラブ」1947(昭和22)年4月~10月
入力者tatsuki
校正者浅原庸子
公開 / 更新2003-10-03 / 2014-09-18
長さの目安約 30 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   ゆかいな時代


 このゆかいな探険は、千九百七十何年だかにはじめられた。いいですか。
 探険家はだれかというと、川上一郎君、すなわちポコちゃんと、山ノ井万造君、すなわち千ちゃんと、この二人の少年だった。
 川上君は、顔がまるく、ほっぺたがゴムまりのようにふくらみ、目がとてもちいさくて、鼻がとびだしているので、まめタヌキのように、とてもあいきょうのある顔の少年だ。タヌキはポンポコポンであるから、それをりゃくして川上君のことを友だちはポコちゃんとよんでいる。とてものんきな、にぎやかな子どもだ。
 山ノ井君のほうは、顔が丸くなく、上下にのびていて、頭は大きく、あごの先がとがっていて、どこかヘチマに似ている。ヘチマ君とよばないで、ヘチマのチを千とよみ、千ちゃんとよばれているが、それは山ノ井君はなかなか勉強がよくでき、友だちにしんせつで、級長をしているくらいだから、ヘチマとはよばないのだった。
 この二人はたいへん仲がよくて、いつも二人つながってあるいていたり、あそんだり勉強したりしている。だからこの二人が組んで、探険に出かけるのはもっとものことだ。
 探険――などというと、むかしはたいへん大じかけな、お金のうんといる事業のようにいわれたものだ。そのくせ探険のもくてき地はアフリカの密林の中とか、北極とかで、みんなこのせまい地球の上にある場所にすぎなかった。いまはそうではなく、探険といえば、たいてい地球の外にとびだしていくのだ。年号が千九百七十年代にはいると、世界中の人々がこの宇宙探険熱にとりつかれ、われもわれもと探険に出かけるようになった。探険がかんたんにできるようになったわけは、もちろん原子力エンジンが完成したせいである。
 原子力エンジンは、小型のものでも、何億馬力の力をだす。その原料はすこしでよい。昔はガソリンや石炭をつかっていたが、あんなものはうんとたいても、いくらの力も出やしない。原子力エンジンが世の中に出るようになってから、ガソリンも石炭もただみたいにやすくなったが、それは原子力エンジンにくらべると、たいへん能率のわるいエネルギーの源だからである。
 さて、わがポコちゃんと千ちゃんをここへつれてきて二人の話をきくことにしよう。
「もう知れちまったのですか。早いねえ。ええそうです。ぼくとポコちゃんとの二人で、この夏やすみの二カ月間を利用して、ちょっと月の世界を探険してこようと思うんです」
 そういったのは、千ちゃんだった。
「ほんとうはぼくは火星までいってみたいんだけれどねえ。こんどは日数がたりないので、だめさ」
 ポコちゃんは、小さい目をしばたいてそういった。
「月の世界にこれまでいったことがあるんですか」
 と、きいてみた。
「いいや、こんどが、はじめてです」
「どんなものを目的に探険するのですか。貴重な鉱石かなんかをさがしにいくんでしょう」
「…

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