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大宇宙遠征隊
だいうちゅうえんせいたい
作品ID3375
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第9巻 怪鳥艇」 三一書房
1988(昭和63)年10月30日
初出「国民五年生」1941(昭和16)年4月号~(終号未詳)
入力者tatsuki
校正者原田頌子
公開 / 更新2004-04-07 / 2019-01-14
長さの目安約 111 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   噴行艇は征く


 黒いインキをとかしたようなまっくらがりの宇宙を、今おびただしい噴行艇の群が、とんでいる。
「噴行艇だ!」
 噴行艇といっても、なんのことか、わからない人もあるであろう。噴行艇は、ロケットとも呼ばれていた時代があった。飛行機は、空をとぶことができるが、空気のないところではとべない。しかし噴行艇は、空気のないところでも、よくとべるのだ。艇尾へむけ、八本の噴管から、或る瓦斯を、はげしく噴きだすと、そのいきおいで、艇は前方にすすむのである。艇尾には、舵があって、これをうごかすと、とびゆく方向は、どうでもかわるのであった。大宇宙をとぶには、飛行機ではとてもだめであるが、この噴行艇なら、瓦斯のつづくかぎり、大宇宙をとぶことができる。
 飛行機時代から、次にこの噴行艇時代にうつっていった。
 それとともに、人間の目は、地球からはなれ、さらに遠い大宇宙へむけられたのであった。
 今、おびただしい噴行艇の群も、大宇宙をとんでいく。
 砲弾を大きくして、尾部に――噴管をつけ、そして大きな翼をうしろの方まで、ずっとのばすと、それはそっくり噴行艇の形になる。
 銀白色のうつくしい姿の噴行艇だった。その胴に、ときどき前にいく僚艇の噴射瓦斯が青白く反射する。また、ときおりは、空を一杯に、ダイヤモンドをふりまいたような無数のかげが艇の胴のうえに、きらりと光をおとすこともあった。
 ごうごうたる爆音をあげて、とびゆく噴行艇の群!
 右まきの螺旋形をつくって、行儀よくとんでいく噴行艇群だった。
 群は、前後に、いくつかのかたまりになって、無数の雁の群がとんでいるのと、どこか似たところがあった。
 噴行艇の胴に、黄いろい鋲のようなものが並んでみえる。しかし、それは鋲ではない。丸窓なのである。
 丸窓の類は、一つの噴行艇について、およそ百に近かった。その黄いろい丸窓から、人間の顔が一つずつのぞいたとしても、百人の人間が、艇内にいるわけだ。なんという大きな噴行艇であろうか。
 しかし、噴行艇には、百人よりも、もっとたくさんの人間がのりこんでいた。
 これから、わたくしがお話しようと思う噴行艇アシビキ号には、二百三十人の日本人がのっている。みんな日本人ばかりであった。
 いや、日本人がのっているのは、このアシビキ号だけではない。今、この大宇宙を、大きな一かたまりになってとんでいる噴行艇の、どの艇にも、日本人がのっていた。いや、もっとはっきりいうと、全部で、百七十の噴行艇の乗組員は、ことごとく日本人でしめられていたのである。
 この噴行艇群は、一体どこへ向けてとんでいるのであろうか。また何の目的で、このような大宇宙へとびだしたのであろうか。総員四万余名もの日本人が、なぜ一かたまりになって、とんでいるのであろうか。読者諸君はふしぎに思われるであろうが、全くのところ、今から五十年…

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