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大空魔艦
たいくうまかん
作品ID3376
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第9巻 怪鳥艇」 三一書房
1988(昭和63)年10月30日
入力者tatsuki
校正者土屋隆
公開 / 更新2005-05-16 / 2014-09-18
長さの目安約 64 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

   模型飛行機


 丁坊という名でよばれている東京ホテルの給仕君ほど、飛行機の好きな少年は珍らしいであろう。
 丁坊は、たくさんの模型飛行機をもっている。みんなで五六十台もあろうか。これはみな丁坊が自分でつくったのだ。
 航研機もある。ニッポン号もある。ダグラスやロックヒードの模型もみんな持っているのだ。
「おい、丁坊。ベルリンから来た新聞に、こんな新しい飛行機の写真が出ているぜ」
 などと、ホテルのボーイ長の長谷川さんは、外国から来る新聞によく気をつけていて、珍らしい写真があると、それを丁坊に知らせてくれるのだった。
「ふふん、これは素敵だ。プロペラが四つもついていらあ。――長谷川さん、どうもありがとう」
 そうお礼をいって、丁坊は新聞を穴のあくほど見つめているが、それから一週間ぐらい経つと、丁坊は大きな叫び声をあげて、ホテルの裏口からとびこんでくる。
「長谷川さんはどこにいるの。うわーい、新しい飛行機が出来たい」
 丁坊は、手づくりのその模型をボーイ長の鼻の先へもっていって愕かせる。
「うーむ、これは何処で買ってきたんだい」
「買ったんじゃないよ。僕が一週間かかってこしらえちゃったんだい」
「あはっはっはっ。嘘をつけ、子供にこんな立派な細工が出来るものかい」
 と、ボーイ長は本当にしない。
 そこで丁坊は怒って、それじゃ僕の腕前を見せてやろうというので、この頃はホテルの中で身体の明いたとき、せっせと模型飛行機をつくっている。
 ホテルで丁坊が儲けたお金のその半分は、模型飛行機材料を買うためになくなってしまう。
 丁坊の家族は、お母さんが只ひとりいるきりだ。お父さんは、今から十年ほど前、なくなった。このお母さんという人が変っていて、丁坊が飛行機模型をつくるのに、ホテルで儲けた尊いお金の半分をつかってしまうので、さぞお怒りなんだろうと思っていると、そうではない。
「丁太郎(これが丁坊の本名だ)は飛行機がすきなんだし、それに手も器用なんですから、わたくしは飛行機づくりならいくらでもおやり、お母さんは叱らないからねといっているのでございますよ」
 と、お母さんはすましたものである。
「いえね、それにうちの丁太郎は自分で働いて儲けたお金で好きな細工をやっているんですから、云うことはありませんよ。これからの世界は、わたくしたちの昔とはちがいますよ。役に立つことにはどんどんお金をつかわないと、えらい人にはなれませんよ」
 と、お母さんは近所の奥さんに話をして、とくいのように見えた。こんなふうだから、丁坊はいよいよ飛行機模型づくりに熱心になって、三間しかないお家の天井という天井には、いまでは大小さまざまの飛行機模型がずらりとぶらさがっていて、風にゆらゆらゆらいでいる。だから蠅などは、それにおどろいて、丁坊の家に入ってきても、すぐ逃げていってしまう。
 このような丁坊…

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