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夜叉ヶ池
やしゃがいけ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「泉鏡花集成7」 ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年12月4日
入力者門田裕志
校正者染川隆俊
公開 / 更新2002-02-22 / 2015-04-17
長さの目安約 57 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

場所  越前国大野郡鹿見村琴弾谷
時   現代。――盛夏
人名  萩原晃(鐘楼守)
百合(娘)
山沢学円(文学士)
白雪姫(夜叉ヶ池の主)
湯尾峠の万年姥(眷属)
白男の鯉七
大蟹五郎
木の芽峠の山椿
鯖江太郎
鯖波次郎
虎杖の入道
十三塚の骨
夥多の影法師
黒和尚鯰入(剣ヶ峰の使者)
与十(鹿見村百姓)
その他大勢
鹿見宅膳(神官)
権藤管八(村会議員)
斎田初雄(小学教師)
畑上嘉伝次(村長)
伝吉(博徒)
小烏風呂助(小相撲)
穴隈鉱蔵(県の代議士)
劇中名をいうもの。――(白山剣ヶ峰、千蛇ヶ池の公達)
[#改ページ]

三国岳の麓の里に、暮六つの鐘きこゆ。――幕を開く。
萩原晃この時白髪のつくり、鐘楼の上に立ちて夕陽を望みつつあり。鐘楼は柱に蔦からまり、高き石段に苔蒸し、棟には草生ゆ。晃やがて徐に段を下りて、清水に米を磨ぐお百合の背後に行く。
晃 水は、美しい。いつ見ても……美しいな。
百合 ええ。
その水の岸に菖蒲あり二三輪小さき花咲く。
晃 綺麗な水だよ。(微笑む。)
百合 (白髪の鬢に手を当てて)でも、白いのでございますもの。
晃 そりゃ、米を磨いでいるからさ。……(框の縁に腰を掛く)お勝手働き御苦労、せっかくのお手を水仕事で台なしは恐多い、ちとお手伝いと行こうかな。
百合 可うございますよ。
晃 いや……お手伝いという処だが、お百合さんのそうした処は、咲残った菖蒲を透いて、水に影が映したようでなお綺麗だ。
百合 存じません。
晃 賞めるのに怒る奴がありますか。
百合 おなぶり遊ばすんでございますものを。――そして旦那様は、こんな台所へ出ていらっしゃるものではありません。早くお机の所へおいでなさいまし。
晃 鐘を撞く旦那はおかしい。実は権助と名を替えて、早速お飯にありつきたい。何とも可恐く腹が空いて、今、鐘を撞いた撞木が、杖になれば可いと思った。ところで居催促という形もある。
百合 ほほほ、またお極り。……すぐお夕飯にいたしましょうねえ。
晃 手品じゃあるまいし、磨いでいる米が、飯に早変わりはしそうもないぜ。
百合 まあ、あんな事を――これは翌朝の分を仕掛けておくのでございますよ。
晃 翌朝の分――ああ、お所帯もち、さもあるべき事です。いや、それを聞いて安心したら、がっかりして余計空いた。
百合 何でございますねえ。……お菜も、あの、お好きな鴫焼をして上げますから、おとなしくしていらっしゃいまし。お腹が空いたって、人が聞くと笑います。
晃 (縁を上る)誰に遠慮がいるものか、人が笑うのは、ね、お前。
百合 はい。
晃 お互いに朝寝の時――
百合 知りませんよ。(莞爾俯向く。)
晃 煩く薮蚊が押寄せた。裏縁で燻してやろう。(納戸、背後むきに山を仰ぐ)……雲の峰を焼落した、三国ヶ岳は火のようだ。西は近江、北は加賀、幽に美濃の山々峰々、数万の松明を列ね…

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