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錦染滝白糸
もみじぞめたきのしらいと
副題――其一幕――
――そのひとまく――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「泉鏡花集成7」 ちくま文庫、筑摩書房
1995(平成7)年12月4日
入力者門田裕志
校正者今井忠夫
公開 / 更新2003-09-08 / 2014-09-18
長さの目安約 16 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

場所。
  信州松本、村越の家
人物。
  村越欣弥(新任検事)
  滝の白糸(水芸の太夫)
  撫子(南京出刃打の娘)
  高原七左衛門(旧藩士)
  おその、おりく(ともに近所の娘)


[#改ページ]



撫子。円髷、前垂がけ、床の間の花籠に、黄の小菊と白菊の大輪なるを莟まじり投入れにしたるを視め、手に三本ばかり常夏の花を持つ。
傍におりく。車屋の娘。
撫子 今日は――お客様がいらっしゃるッて事だから、籠も貸して頂けば、お庭の花まで御無心して、ほんとうに済みませんのね。
りく 内の背戸にありますと、ただの草ッ葉なんですけれど、奥さんがそうしてお活けなさいますと、お祭礼の時の余所行のお曠衣のように綺麗ですわ。
撫子 この細りした、(一輪を指す)絹糸のような白いのは、これは、何と云う名の菊なんですえ。
りく 何ですか、あの……糸咲々々ってお父さんがそう云いますよ。
撫子 ああ、糸咲……の白菊……そうですか。
りく そして、あのその撫子はお活けなさいませんの。
撫子 おお、この花は撫子ですか。(手なる常夏を見る。)
りく ええ、返り咲の花なんですよ。枯れた薄の根に咲いて、珍しいから、と内でそう申しましてね。
撫子 その返り咲が嬉いから、どうせお流儀があるんじゃなし、綺麗でさえあれば可い、去嫌い構わずに、根〆《ねじめ》にしましょうと思ったけれど、白菊が糸咲で、私、常夏と覚えた花が、撫子と云うのでしたら、あの……ちょっと、台所の隅へでも、瓶に挿しましょう。
りく そう、見つけて来ましょう。(起つ。)
撫子 (熟と籠なると手の撫子とを見較ぶ。)
りく これじゃいかが。
撫子 ああ結構よ。(瓶にさす時水なし)あら水がない。
りく 汲んで来ましょう。
撫子 いいえ、撫子なんか、水がなくって沢山なの。
りく まあ、どうして?
撫子 それはね、南京流の秘伝なの。ほほほ。(寂しく笑う。)
おその、蓮葉に裏口より入る。駄菓子屋の娘。
その 奥様。
撫子 おや、おそのさん。
その あの、奥様。お客様の御馳走だって、先刻、お台所で、魚のお料理をなさるのに、小刀でこしらえていらしった事を、私、帰ってお饒舌をしましたら、お母さんが、まあ、何というお嬢様なんだろう。どんな御身分の方が、お慰みに、お飯事をなさるんでも、それでは御不自由、これを持って行って差上げな、とそう言いましてね。(言いつつ、古手拭を解く)いま研いだのを持って来ました。よく切れます……お使いなさいまし、お間に合せに。……(無遠慮に庖丁を目前に突出す。)
撫子 (ゾッと肩をすくめ、瞳を見据え、顔色かわる)おそのさん、その庖丁は借ません。
その ええ。
撫子 出刃は私に祟るんです。早く、しまって下さいな。
その 何でございますか、田舎もので、飛んだことをしましたわ。御免なさい、おりくさん、お詫をして頂戴な。
りく お気に…

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