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本当の愛嬌ということ
ほんとうのあいきょうということ
作品ID3456
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十六巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日
初出「民報」1947(昭和22)年7月5日号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-10-22 / 2014-09-18
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 戦争中私たちは随分ひどい生活をしました。そして八月十五日が来た時、日本のすべての人々、とくに婦人たちの目には実に感慨深いなみだがうかんだと思います。これで惨虐なそして不合理な権力の抑圧は終ったと。戦争後私たちの生活は案外に複雑な矛盾で苦しみ、インフレーションで苦しんでいます。人の心も荒んでいます。こういう世相の中で私たちの求めているのは何でしょう。平和が来たというにふさわしい生活の安定と人間らしい心です。おたがいの親切を求めています。その心もちをたいへん巧みに捕えて、片山哲氏は首相になると早々街頭録音に出かけるし、新橋のきわで安井都長官が芋苗を売る手伝いをするし、大変親しみ易い政府がはじまったようです。小包米とか赤ん坊の牛乳、姙産婦用ラードの配給、これは根本的な食糧問題の危機とインフレーションによる私たちの生存の危機を根本的に改善するものではないけれども、今の事情はあんまりひどいから誰しもそれを無いよりはましと思います。
 親切の態度、愛嬌のよさ、主婦や子供に振りまかれるおあいそ。政治と愛嬌とが結ばれた時、政治と不思議な人当りのよさが結ばれた時、若い娘が見知らぬ男からひどくあいそよく物をいいかけられた時のようなうす気味悪さを感じます。しかし孤独な生活に苦しみ愛情に飢えている若い娘はうす気味悪く思った自然の気持ちをまぎらされて甘言にひっかかります。
 今日の新聞を見ると、昭和十二年から十六年十二月七日までの言論界に於ける戦争責任追究の記事があります。今日東京裁判その他で日本が中国その他にしかけた戦争は侵略のための戦争であり、ファシズムの戦争であったことをすべての人は知っています。日本中の婦人は赤紙一枚で自分たちの平和をうちこわし運命をかえてしまったものが、そういう性質の戦争を強引に行った権力であったことを知りました。今日すべての婦人が求めているのは平和と生活の安定だと思います。あの戦争の間、戦争後の今日いわれているような本質をあきらかにして戦争に反対していた人々はどういう人でしたろう。政府の役人でしたでしょうか、官邸におさまっているえらい人でしたでしょうか。そうではありませんでした。社会主義者、共産主義者といわれて言論の自由をうばわれ牢屋にいれられていた人々です。本気で戦争に反対し、つまり私たちの婦人の幸福を守ろうとしてたたかったのが主として共産主義者であり、共産党であったということは、とくに女にとって忘れられないことだと思います。
 今日戦争によって破壊された人民生活の安定の役割を引き受けた政府が、非常に努力して愛嬌よくしながら、なにより大切な戦争反対をした共産党に反共という共同の線を引こうとしていることは信じられないことです。もしそういうことをするならば、言わず語らずのうちにこの愛嬌よい内閣は本質において戦争というファシズムに対して反対しないという恐ろし…

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