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平和への荷役
へいわへのにやく
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十六巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日
初出「婦人公論」1948(昭和23)年7月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-10-24 / 2014-09-18
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

――船が嵐にあって沈まないためには積荷が均衡をもって整理されていることが必要である。――

 わたしたちのまわりに、また戦争に対する恐怖が渦まきはじめた。一部には、その恐怖が病的にさえ高まってゆきつつある。それだのに、どうしてその戦争に対する恐怖の激しさに相当するだけの、きっぱりした戦争拒否の発言と平和の要望が統一された世論としてあらわれて来ないのだろう。兵火におびえる昔の百姓土民のように、あわれにこそこそと疎開小包をつくるよりさきに、わたしたちは落付いて観察し判断するべきいくつかの重大なことを持っていると思う。わたしたち自身を恐慌から救うために――
 日本人の心には、戦争を一つの「災難」のように思う習慣がないだろうか。しかも、どこかに投機的な期待をそそられる気分も動く災難のように。
 明治からこんどの戦争までに日本の政府は日清、日露、第一次世界大戦、そのほか三つ以上の戦争を行った。日清戦争、日露戦争は国民全体にとって記憶のふかい戦争だとされているが、それにしても決して当時の日本のすべての人民の意見による賛成決定で行われたことではなかった。明治、大正時代の日本資本主義の興隆期に向っていた権力者たちが、中国と当時のロシアに対して他の列強資本主義が抱いていた利害関係との一致において敢行したことだった。だから、中国に対する日本の後進国帝国主義の侵略の結果は、その潮のさしひきの間に三国干渉というような微妙な表現で、当時の各列強間に中国の部分的植民地化のきっかけをもたらした。日露戦争のとき、旅順口の攻撃は主として英国の海軍によって行われたものだ、と信じている英国人が少くなかったことは、小説家水上瀧太郎の「倫敦の宿」という作品にかかれている。日本の人民は自分たちの軍事的権力の威力だけで勝利したと信じこまされていた。反対のことが、外国の通念の中に植えこまれている。ここにも見落すことの出来ない現実のひとこまがある。
 日本の人民は、半封建的な当時の社会輿論のなかで、政府が宣伝する開戦理由をそのままのみこんでいたばかりだった。政府の大本営発表を信じたばかりだった。そして、政府が表明した勝利の終曲と、その勝利によってもたらされたと教えこまれた日本の世界一等国への参加をよろこんだだけであった。これら三つの戦争は、そのときどきの英雄大将を生みつつ一方では日本の街頭に廃兵の薬売りの姿を現出し、一将功なって万骨枯る、の思いを与えた。けれどもそれらの人々の犠牲で戦争に勝ったおかげで日本は一等国になれた、という感情が一般のこころもちであった。封建的な日本の気持では、世界の座の順位で一等国になったということを、素朴にいわゆる国民の誇りと感じた。黒船が来て、井伊直弼が暗殺されて、開港した後進国の日本が、ヨーロッパ資本主義列強に伍してアジアで唯一の一等国になったということは、どんなに複雑な明日の…

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