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平和をわれらに
へいわをわれらに
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十六巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日
初出「青年新聞」1949(昭和24)年4月12日号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-10-26 / 2014-09-18
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ここに一個の人物がある。自分のしたい存分をやって、しかもその行為の責任を問い批判する権利をもっている人々の眼、口、耳をおおうために、そこにある報道能力を奪うとしたら、社会の常識は、そういうやりかたを何という名でよぶだろう。ひとのうちへ押し入って勝手な暴力をふるおうとするものが、よく電話線をきったりする。さるぐつわをかませる。手足をしばる。そして目的を達する。こういう行為は反社会的な犯罪とされている。権力をにぎっており、議会において多数であるという力を横車に、自分のところでこれまで一枚も出していなかった政党新聞の用紙を日刊十万部分もわり取って、野党の機関紙をひどいのは十分の一ばかりに切り下げようとするやりかたは正当でない。検事総長が「友人づきあい」で疑獄事件に顔を出す「法の権威」は、こういう言論の自由抑圧の事実をどういう罪名でよぶか知らないが、日本の民衆としては、自分の投じた一票で猿ぐつわをかませられるとは心外だろう。
 現内閣は、政権をとったら、何より先に公約は果せないことを確認して、いい度胸を見せた。「売られる子供」が問題となり「まだ少年奴隷をもっている国日本」と国際的な注視をあびているとき、現内閣はまっさきに婦人少年局を廃止しようとした。これはさわがれて、目的を果さなかった。大学法案というものを出して、これもごうごうの非難をあびている。大学法案は日本の学問が自主的に発展してゆく道を失わせるために最も効果がある。たださえ日本人は猿まねと軽蔑をまねいて、心ある日本人に苦しい思いを抱かせているその日本の学術精神から、この上基礎的勉学を奪い、応用、模倣の末端ばかりを仕込んだら、次の世代の日本人は、世界の学問水準からみたら、命令を理解するに足りるだけの程度をもった知的土民(インテレクチュアル・ネティヴス)となりさがってしまうだろう。
 六・三制のためには、子をもつ親のすべてがひどい思いをして、町にも村にもボスがはびこる有様だが、こんどは六・三制のための予算は丸けずりとなった。その上学童の知能は低下したからと、文部省はこの新学期に、四学年用のものをのぞいて数学の教科書『さんすう』の内容を一学年ずつくり下げたものにして与えた。それも一般にはしらさずこっそりやって、父兄をおどろかし、子供たちをがっかりさせている。学童の知能低下は、子供のつみよりおとなの責任であることは明瞭だ。文部省は、こそこそ教科書の小細工をするより世論はこれだけ真剣に発言しているのだからそれをバックとして、予算をとるために堂々奮戦し、世界の常識にも訴うべきである。文部省がおてもりのユネスコ準備会をこしらえようとしたからには、世界ユネスコの注意をも喚起したらよい。大学法案と云い、六・三制予算丸けずりのやりかたと云い、今の政府が国民生活の真の発展について、誠意をもっていない態度はあまりあらわにすぎる。

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