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文七元結
ぶんしちもとゆい
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「定本 圓朝全集 巻の一」 近代文芸・資料複刻叢書、世界文庫
1963(昭和38)年6月10日
入力者小林繁雄
校正者かとうかおり
公開 / 更新2000-05-08 / 2016-04-21
長さの目安約 31 ページ(500字/頁で計算)
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本文より



 さてお短いもので、文七元結の由来という、ちとお古い処のお話を申上げますが、只今と徳川家時分とは余程様子の違いました事で、昔は遊び人というものがございましたが、只遊んで暮して居ります。よく遊んで喰って往かれたものでございます。何うして遊んでて暮しがついたものかというと、天下御禁制の事を致しました。只今ではお厳しい事でございまして、中々隠れて致す事も出来んほどお厳しいかと思いますと、麗々と看板を掛けまして、何か火入れの賽がぶら下って、花牌が並んで出ています、これを買って店頭で公然に致しておりましても、楽みを妨げる訳はないから、少しもお咎めはない事で、隠れて致し、金を賭けて大きな事をなさり、金は沢山あるが退屈で仕方がない、負けても勝っても何うでも宜いと、退屈しのぎにあれをして遊んで暮そうという身分のお方には宜しゅうございますが、其の日暮しの者で、自分が働きに出なければ、喰う事が出来ないような者がやりますと、自然商売が疎になります。慾徳ずくゆえ、倦きが来ませんから勝負を致し、今日で三日続けて商売に出ないなどということで、何うも障りになりますから、厳しゅう仰しゃる訳で、併し賭博を致しましたり、酒を飲んで怠惰者で仕方がないというような者は、何うかすると良い職人などにあるもので、仕事を精出して為さえすれば、大して金が取れて立派に暮しの出来る人だが、惜い事には怠惰者だと云うは腕の好い人にございますもので、本所の達磨横町に左官の長兵衞という人がございまして、二人前の仕事を致し、早くって手際が好くって、塵際などもすっきりして、落雁肌にむらのないように塗る左官は少ないもので、戸前口をこの人が塗れば、必ず火の這入るような事はないというので、何んな職人が蔵を拵えましても、戸前口だけは長兵衞さんに頼むというほど腕は良いが、誠に怠惰ものでございます。昔は、賭博に負けると裸体で歩いたもので、只今はお厳しいから裸体どころか股引も脱る事が出来ませんけれども、其の頃は素裸体で、赤合羽などを着て、「昨夜はからどうもすっぱり剥れた」と自慢に為ているとは馬鹿気た事でございます。今長兵衞は着物まで取られてしまい、仕方なく十一になる女の子の半纒を借りて着たが、余程短く、下帯の結び目が出ていますが、平気な顔をして日暮にぼんやり我家へ帰って参り、
 長「おう今帰ったよ、お兼……おい何うしたんだ、真暗に為て置いて、燈火でも点けねえか……おい何処へ往ってるんだ、燈火を点けやアな、おい何処……其処にいるじゃアねえか」
 兼「あゝ此処にいるよ」
 長「真暗だから見えねえや、鼻ア撮まれるのも知れねえ暗え処にぶっ坐ッてねえで、燈火でも点けねえ、縁起が悪いや、お燈明でも上げろ」
 兼「お燈明どこじゃアないよ、私は今帰ったばっかりだよ、深川の一の鳥居まで往って来たんだよ、何処まで往ったって知れやアしないんだよ、今朝宅…

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