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「人間関係方面の成果」
「にんげんかんけいほうめんのせいか」
作品ID3501
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十六巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年6月20日
初出「展望」1951(昭和26)年3月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-10-30 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 地球の人口はおよそ二十一億余ある。その大部分が働く人民である。戦争は、いつの場合にでも決して独占資本家たちの殺しあいではなかった。必ずそれぞれの国の人民を狩りたてて殺しあわせた。アナトール・フランスが「ひとは祖国のために死ぬと思っているが実際には工業家のために死ぬのだ」と云った言葉の真実がある。第二次大戦では、毒ガスの使用その他細菌戦を行わないことが申しあわされたが、思いがけない原子爆弾が出現した。それから原子兵器は、現世紀の悪夢となった。国際政治に対して、あらゆる国の人民が重大な関心をむけ、原子兵器使用禁止のために集団的に発言しないではいられなくなった。なぜならナガサキの例をみてもヒロシマの例をみても、原爆で大量殺戮されたのは実に人民であった。軍部の暴圧をしのんで艱難な日々をしのいでいた何の抵抗力ももたないおとなしい人民の男女、老人子供たちが、日本列島を戦略地点として確保することをいそいだ原爆によって、屍を重ねたのだった。
 残酷、破壊という字を知っていないもののようにくりかえされる「戦争」について、人間の天性のおろかさを歎く声は絶えない。科学の発達が、益々大規模な戦争を可能にし、大規模になるということは益々罪のない穏和な人民の大量を殺戮することである事実に、深刻な現世紀の人類的悲劇を見るのは、戦争放火者たち以外のすべてのまともな人々の心情である。だからこそ世界の良心的な科学者たちが、ジョリオ・キューリーをはじめとして自身の能力の所産である原子兵器使用禁止を、このようにも誠意と永続性とで要求している。
 一月一日朝日新聞の第一面に「バンチ湯川両博士対談」がのった。「人類互に理解と尊敬を」もつべきだというテーマの対談で、黒人博士バンチの談話は現実に平和のために働いている人としての具体性が感銘を与えた。ラルフ・バンチ博士はパレスチナ紛争調停の功によって、黒人として初のノーベル賞受賞者である。
 バンチ博士の話の中で次の数行に関心をひかれた人は少くないだろうと思う。「人間は社会関係の方面では、自然科学の方と同じような天才を示さない」「自然科学者は自然を制御することによって」「人間が人間自身を世界から消滅せしめ得るようなものを作った。」「しかし社会科学では幸か不幸か、こうした天才が現れていない。もし社会科学者が人間は人間と生活するという極めて簡単なことに同様の天才を示したならば、この世界は全然ちがったものになるであろう。もしわれわれが科学の成果に加うるに人間関係方面の成果をもつけ加えることができたならば、この世の中は完全なパラダイスであろう」「むずかしいことは、人間関係の進歩は自然科学の進歩と歩調をあわせなかったということである」云々と。
 一九〇〇年にはいってからこんにちまでの世界史を虚心にしらべてみたとき、わたしたちは、人間関係の進歩が科学の進歩と全く歩調を…

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