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空襲警報
くうしゅうけいほう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第4巻 十八時の音楽浴」 三一書房
1989(平成元)年7月15日
初出「少年倶楽部」別冊付録、大日本雄弁会講談社、1936(昭和11)年7月
入力者tatsuki
校正者土屋隆
公開 / 更新2005-09-11 / 2014-09-18
長さの目安約 94 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

   日本海の夕日


 大きな夕日は、きょうも日本海の西の空に落ちかかった。うねりの出て来た海上は、どこもここもキラキラと金色に輝いていた。
「美しいなあ!」
 旗男少年は、得意の立泳をつづけながら、夕日に向かって挙手の礼をささげた。こんな入日を見るようになってから、もう三日目、いよいよお天気が定まって本当の真夏になったのだ。
「オイ旗男君。沖を向いて、一体誰に敬礼しているんだい」
 後から思いがけない声が旗男に呼びかけた。驚いて後をふりむくと、波の間から頑丈なイガ栗坊主の男の顔が、白い歯をむき出して笑っていた。
「ああ……誰かと思ったら、義兄さん!」
 それは義兄の陸軍中尉川村国彦だった。旗男の長姉にあたる露子が嫁いでいるのだった。旗男は、東京の中学の二年生で、夏休を、この直江津の義兄の家でおくるためにきているのだった。
「義兄さんずいぶん家へ帰ってこなかったですね。きょう休暇ですか」
「そうだ。やっとお昼から二十四時間の休暇が出たんだよ。露子がごちそうをこしらえて待っている。迎えかたがた、久しぶりで塩っからい水をなめにきたというわけさ。ハッハッハッ」
「塩っからい水ですって? じゃあ、また海の中で西瓜取をやりましょうか」
「それが困ったことに、来るとき、西瓜を落してしまったんだよ」
「えッ落したッ? ど、どこへ落したんです。割れちゃったの?」
「ハッハッハッ、割れはしなかったがね。ボチャンと音がして、深いところへ……」
「深いところへって? 流れちゃったんですか」
「流れはしないだろう。綱をつけといたからね。ハッハッハッ」
「綱を……ああわかった。なーんだ、井戸の中へ入れたんでしょう……。また義兄さんに一杯くわされたなァ」
「まだくわせはしないよ。さあ、早く帰ってみんなでくおうじゃないか」
 二人はくるりと向きを変えると、肩をならべて平泳で海岸の方へ泳ぎだした。
「義兄さん、お天気が定まったせいか、日本海も太平洋と同じように穏かですね」
「ウン、見懸だけは穏かだなァ……」
 国彦中尉は、なんとなく奥歯に物の挟まったような言いかたをして、妙に黙った。
「見懸は穏かで、本当は穏かでないんですか。どういうわけですか、義兄さん!」
「ウフフ、旗男君にはわかっとらんのかなァ。君はいま、沖を見て挙手の礼をしていたね。あれは日本海を向こうへ越えた国境附近で、御国のために生命を投げだして働いている、わが陸海軍将兵のために敬意を表していたのかと思ったんだが、そうじゃなかったのかね」
「ええ、敬礼は太陽にしていたんです。……がその国境で何かあったんですか。例の国境あらそいで、世界一の陸空軍国であるS国と小ぜりあいをしているって聞いてはいましたが、……いよいよ宣戦布告をして戦争でも始めたのですか」
「さあ、何ともいえないが、とにかく穏かならぬ雲行だ。それにこれからは、昔の戦…

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