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闇夜の梅
やみよのうめ
作品ID354
著者三遊亭 円朝
文字遣い新字新仮名
底本 「定本 圓朝全集 巻の一」 近代文芸・資料複刻叢書、世界文庫
1963(昭和38)年6月10日
入力者小林繁雄
校正者かとうかおり
公開 / 更新2000-05-10 / 2016-04-21
長さの目安約 44 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 エヽ講談の方の読物は、多く記録、其の他古書等、多少拠のあるものでござりますが、浄瑠璃や落語人情噺に至っては、作物が多いようでござります。段々種を探って見ると詰らぬもので、彼の浄瑠璃で名高いお染久松のごときも、実説では久松が十五、お染が三歳であったというから、何うしても浮気の出来よう道理がござりませぬ。久松が十五の時、主人の娘お染を桂川の辺で遊ばせて居る中に、つい過ってお染を川の中へ落したから御主人へ申訳がない、何うかして助けにゃならぬと思ったものか、久松も続いて飛込むと、游泳を知らなかったからついそれ切りとなった。これを種にしてお染久松という質店の浄瑠璃が出来ましたものでござります。又大阪の今宮という処に心中があった時に、或狂言作者が巧にこれを綴り、標題を何としたら宜かろうかと色々に考えたが、何うしても工夫が附きませぬ、そこで三好松洛の許へ行って、
 「なんとこれ迄に拵えたが、外題を何とつけたらよかろう」
 「いやお前のように、そんなに凝っちゃアいけませぬ、寧そ手軽く『心中話たった今宮』と仕たらようござりましょう」
 「成程」
 と直に右の通の外題にして演ると大層に当ったという話がある。その真似をして林家正藏という怪談師が、今戸に心中のあった時に『たった今戸心中噺』と標題を置き拵えた怪談が大して評が好かったという事でござります。この闇夜の梅と題するお話は、戯作物などとは事違い、全く私が聞きました事実談でござります。
 えゝ、浅草に三筋町と申す所がある。是も縁で、三筋町があるから、其の側に三味線堀というのがあるなどは誠におかしい、それゆえ生駒というお邸があるんだなんぞは、後から拵えたものらしい。下谷があるから上野があって、側に仲町がありまして上中下と揃って居る。縁というものは何う考えても不思議なもので、腕尽にも金尽にも及ばぬものだというが、これは左様かも知れませぬ、まア呉服屋などで、不図地機の好い、お値段も恰好な反物を見附けたから買おうと思って懐中へ手を入れて見ると、金子が少々足りないから、一旦立ち帰り、金子の用意をして再び来ると、誠にお気の毒様でござりますが、貴方がお帰りになると、直に入らしったお方が見せて呉れと仰しゃいまして、到頭其の方の方へ縁附になりました。いやそれは残念な事をした、もうあゝいうのはありませぬか。へい、あれは二百反の中二反だけ別機であったのですから、もう外にはござりませぬ。それでは仕方がない、縁がなかったのだろう。と諦めてしまうと、時経ってから不意と田舎などから、自分が買いたいと思った品とそっくりな反物を貰う事などがある。又お馴染の芸者でも、生憎買おうと思った晩外にお約束でもあれば逢う事は出来ませぬ。又金子を沢山懐中に入れて芝居を観ようと思って行っても、爪も立たないほどの大入で、這入り所がなければ観る事は出来ませぬ。だから縁の無い…

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