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油絵新技法
あぶらえしんぎほう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「小出楢重随筆集」 岩波文庫、岩波書店
1987(昭和62)年8月17日
「小出楢重全文集」 五月書房
1981(昭和56)年9月10日
入力者小林繁雄
校正者米田進
公開 / 更新2002-12-27 / 2014-09-17
長さの目安約 156 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     序言

 日本の油絵も、ようやくパリのそれと多くの距離を有たぬようにまで達しつつある事は素晴らしき進歩であると思う。だがしかし、新らしき芸術の颱風は常に巴里に発生している。まだ日本は発祥の地ではあり得ない事は遺憾であるが、それはまだ新らしき日本が絵画芸術のみならずあらゆる文化が今急速に新らしく組み立てられつつ動いて行く工事場の混乱を示している最中である。今あらゆる新らしきものを速かに吸収消化する能力こそ、若き日本人の生命であるともいえる。だが新らしき日本へ新らしき花を発祥させるには根のない木を植えてはいけない。一本の松は地下にどれだけ驚くべき根を拡げているかを調べてみるがいい。芸術はカフェーの店頭を飾るべき紙製の桜であってはならない。しかしややもすると、新日本文化は紙の桜となりがちである。それが最も気にかかる事だ。
 この書は、技法そのものについて、例えば新らしき芸術を作るには砂糖幾瓦、メリケン粉、塩何匁、フライパンに入れて、といった風の調理法を説かなかった。あらゆる画家の修業は図書館では行わないものである。
 彼らはミュゼーと、そしてモデルと、石膏と、風景から、伝心的に技法を悟ったに過ぎないと私は思っている。そこで、私は現代にあって、最も困難な絵画芸術に志す若き人たちに対して、この工事中の混乱に向うべき心構えについて、いささか私の考えを不完全ながら述べたつもりである。そして、それから先きの仕事は私の関する処でない。

  昭和五年九月


[#改頁]


   油絵新技法


     1 序言

 枠へ如何にしてカンバスを張るかパレットは如何に使用するか、等の如き説明はかなり多くの画法の書物に説かれているようだから、私はさような道具類の説明をなるべく避けて、ここには主として、専門に本心に油絵を描き出そうとする人たちへ、絵の技法というものについての心構えといった風の事と、それから現在の世の中に生きているわれわれの心を生かして行くのに最も適当である処の近代の技法について少々述べて見たいと思うのである。
 しかしながら新らしい技法というものは昔の画法や画伝の如く、天狗から拝領に及んだ一巻がある訳ではない。その一巻がない処に近代の技法が存在するのである。
 従って万事は心の問題であるので技法としてお伝えする事も甚だ六つかしい。私自身も油絵という船に目下皆様と共に乗り込んで難航最中なのである。燈台から燈台へ港から港へと辛じて渡りつつあるのだ。何時暗礁に乗上げて鯨に食べられてしまうかも知れないのである。全く偉らそうな事はいえないものだ。
 しかし、私は私の行こうと思っている心の方向へ常に船を向けつつ走っているつもりである。それで、今ここに私は何か技法上の事を書く事になった。がそれは先ず私の船の阿呆らしい航海日記とか航海のうちに感じた事柄を記してこれから乗船…

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