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縷紅新草
るこうしんそう
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「泉鏡花集成9」 ちくま文庫、筑摩書房
1996(平成8)年6月24日
入力者門田裕志
校正者多羅尾伴内
公開 / 更新2003-09-13 / 2014-09-18
長さの目安約 50 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

       一

あれあれ見たか、
  あれ見たか。
二つ蜻蛉が草の葉に、
かやつり草に宿をかり、
人目しのぶと思えども、
羽はうすものかくされぬ、
すきや明石に緋ぢりめん、
肌のしろさも浅ましや、
白い絹地の赤蜻蛉。
雪にもみじとあざむけど、
世間稲妻、目が光る。
  あれあれ見たか、
    あれ見たか。

「おじさん――その提灯……」
「ああ、提灯……」
 唯今、午後二時半ごろ。
「私が持ちましょう、磴に打撞りますわ。」
 一肩上に立った、その肩も裳も、嫋な三十ばかりの女房が、白い手を差向けた。
 お米といって、これはそのおじさん、辻町糸七――の従姉で、一昨年世を去ったお京の娘で、土地に老鋪の塗師屋なにがしの妻女である。
 撫でつけの水々しく利いた、おとなしい、静な円髷で、頸脚がすっきりしている。雪国の冬だけれども、天気は好し、小春日和だから、コオトも着ないで、着衣のお召で包むも惜しい、色の清く白いのが、片手に、お京――その母の墓へ手向ける、小菊の黄菊と白菊と、あれは侘しくて、こちこちと寂しいが、土地がら、今時はお定りの俗に称うる坊さん花、薊の軟いような樺紫の小鶏頭を、一束にして添えたのと、ちょっと色紙の二本たばねの線香、一銭蝋燭を添えて持った、片手を伸べて、「その提灯を」といったのである。
 山門を仰いで見る、処々、壊え崩れて、草も尾花もむら生えの高い磴を登りかかった、お米の実家の檀那寺――仙晶寺というのである。が、燈籠寺といった方がこの大城下によく通る。
 去ぬる……いやいや、いつの年も、盂蘭盆に墓地へ燈籠を供えて、心ばかり小さな燈を灯すのは、このあたりすべてかわりなく、親類一門、それぞれ知己の新仏へ志のやりとりをするから、十三日、迎火を焚く夜からは、寺々の卵塔は申すまでもない、野に山に、標石、奥津城のある処、昔を今に思い出したような無縁墓、古塚までも、かすかなしめっぽい苔の花が、ちらちらと切燈籠に咲いて、地の下の、仄白い寂しい亡霊の道が、草がくれ木の葉がくれに、暗夜には著く、月には幽けく、冥々として顕われる。中でも裏山の峰に近い、この寺の墓場の丘の頂に、一樹、榎の大木が聳えて、その梢に掛ける高燈籠が、市街の広場、辻、小路。池、沼のほとり、大川縁。一里西に遠い荒海の上からも、望めば、仰げば、佇めば、みな空に、面影に立って見えるので、名に呼んで知られている。
 この燈籠寺に対して、辻町糸七の外套の袖から半間な面を出した昼間の提灯は、松風に颯と誘われて、いま二葉三葉散りかかる、折からの緋葉も灯れず、ぽかぽかと暖い磴の小草の日だまりに、あだ白けて、のびれば欠伸、縮むと、嚔をしそうで可笑しい。
 辻町は、欠伸と嚔を綯えたような掛声で、
「ああ、提灯。いや、どっこい。」
 と一段踏む。
「いや、どっこい。」
 お米が莞爾、
「ほほほ、そんな掛声が出るようで…

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