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売文問答
ばいぶんもんどう
作品ID3758
著者芥川 竜之介
文字遣い新字旧仮名
底本 「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」 筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日
入力者土屋隆
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-07-28 / 2014-09-21
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 編輯者 わたしの方の雑誌の来月号に何か書いて貰へないでせうか?
 作家 駄目です。この頃のやうに病気ばかりしてゐては、到底何もかけません。
 編輯者 其処を特に頼みたいのですが。
 この間に書かば一巻の書をも成すべき押問答あり。
 作家 ――と云ふやうな次第ですから、今度だけは不承して下さい。
 編輯者 困りましたね。どんな物でも好いのですが、――二枚でも三枚でもかまひません。あなたの名さへあれば好いのです。
 作家 そんな物を載せるのは愚ぢやありませんか? 読者に気の毒なのは勿論ですが、雑誌の為にも損になるでせう。羊頭を掲げて狗肉を売るとでも、悪口を云はれて御覧なさい。
 編輯者 いや、損にはなりませんよ。無名の士の作品を載せる時には、善ければ善い、悪ければ悪いで、責任を負ふのは雑誌社ですが、有名な大家の作品になると、善悪とも責任を負ふものは、何時もその作家にきまつてゐますから。
 作家 それぢやなほ更引き受けられないぢやありませんか?
 編輯者 しかしもうあなた位の大家になれば、一作や二作悪いのを出しても、声名の下ると云ふ患もないでせう。
 作家 それは五円や十円盗まれても、暮しに困らない人がある場合、盗んでも好いと云ふ論法ですよ。盗まれる方こそ好い面の皮です。
 編輯者 盗まれると思へば不快ですが、義捐すると思へばかまはんでせう。
 作家 冗談を云つては困ります。雑誌社が原稿を買ひに来るのは、商売に違ひないぢやありませんか? それは或主張を立ててゐるとか、或使命を持つてゐるとか、看板はいろいろあるでせう。が、損をしてまでも、その主張なり使命なりに忠ならんとする雑誌は少いでせう。売れる作家ならば原稿を買ふ、売れない作家ならば頼まれても買はない、――と云ふのが当り前です。して見れば作家も雑誌社には、作家自身の利益を中心に、断るとか引き受けるとかする筈ぢやありませんか?
 編輯者 しかし十万の読者の希望も考へてやつて貰ひたいのですが。
 作家 それは子供瞞しのロマンテイシズムですよ。そんな事を真に受けるものは、中学生の中にもゐないでせう。
 編輯者 いや、わたしなどは誠心誠意、読者の希望に副ふつもりなのです。
 作家 それはあなたはさうでせう。読者の希望に副ふ事は、同時に商売の繁昌する事ですから。
 編輯者 さう考へて貰つては困ります。あなたは商売商売と仰有るが、あなたに原稿を書いて貰ひたいのも、商売気ばかりぢやありません。実際あなたの作品を好んでゐる為もあるのです。
 作家 それはさうかも知れません。少くともわたしに書かせたいと云ふのは、何か好意も交つてゐるでせう。わたしのやうに甘い人間は、それだけの好意にも動かされ易い。書けない書けないと云つてゐても、書ければ書きたい気はあるのです。しかし安請合をしたが最期、碌な事はありません。わたしが不快な目に遇はな…

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