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リチャード・バートン訳「一千一夜物語」に就いて
リチャード・バートンやく「いっせんいちやものがたり」について
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」 筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日
入力者土屋隆
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-08-09 / 2014-09-21
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     一

 リチヤアド・バアトン(Richard Burton)の訳した「一千一夜物語」――アラビヤン・ナイツは、今日まで出てゐる英訳中で先づ一番完全に近いものであるとせられてゐる。勿論、バアトン以前に出た訳本も数あつて、一々挙げる遑も無い程であるが、先づ「一千一夜物語」を欧羅巴に紹介した最初の訳本は一七〇四年に出たアントアン・ガラン(Antoine Galland)教授の仏訳本である。これは勿論完訳ではない。ただ甚だ愛誦するに足る抄訳本と云ふ位のものである。ガラン以後にも手近い所でフオスタア(Foster)だとかブツセイ(Bussey)だとかいろいろ訳本の無い訣ではない。併し何れも訳語や文体は仏蘭西臭味を漂はせた、まづ少年読物と云ふ水準を越えないものばかりである。
 ガラン教授から一世紀の後――即ち一八〇〇年以後の主なる訳者を列挙して見ると、大体下の通りである。
1. Dr. Jonathan Scott. (1800)
2. Edward Wortley. (1811)
3. Henry Torrens. (1838)
4. Edward William Lane. (1839)
5. John Pane. (1885)
 トレンズの訳本は、在来のもののやうに英仏臭味を帯びないもので、其の点では一歩を進めたものであるが、訳者が十分原語に通暁してゐなかつたし、殊に埃及やシリヤの方言などを全く知らなかつた為に、憾むらくは所期の点に達し得なかつた。而も十分の一位で中絶して居るのは、甚だ惜むべきことである。
 レエンの訳本――日本へは最も広く流布してゐる。殊にボオン(Bohn)叢書の二巻ものは、本郷や神田の古本屋でよく見受けられる――は底本としたバラク(Bulak)版が元々省略の多いものであり、其の上に二百ある話の中から半分の百だけを訳出したもので、随つて残りの百話の中に却つて面白いものが有ると云ふやうな訣で、お上品に出来過ぎて了つて、応接間向きの趣向は好いとしても、慊らないこと夥しい。お負けに、レエンは一夜一夜を章別にした上に、或章は註の中に追入れて了つたり、詩を散文に訳出したり又は全然捨てて了つたりして居るし、児戯に類する誤訳も甚だ多いと云ふ次第。
 次にペエン――フランソア・ヴイヨン(Fran[#挿絵]ois Vilon)の詩を英訳した――の「一千一夜物語」の訳は、旧来のものに比べると格段に優れてゐる。話の数もガラン訳の四倍あり其の他のものの三倍はあるが、手の届かぬ所が無いでもない。しかし兎も角好訳であるが、私版を五百部刊行しただけで、遂に稀覯書の中に這入つて了つた。ただ一つ特記すべきことは、巻頭にバアトンへの献詞が附いてゐることである。
 バアトンの訳本も、一千部の限定出版で、容易に手に入り難い。出版当時十ポンドであつたものが、今日では三十ポンド内…

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