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日本の女
にっぽんのおんな
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」 筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日
入力者土屋隆
校正者松永正敏
公開 / 更新2007-07-25 / 2014-09-21
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

     一

 ここに面白い本がある。本の名は「ジヤパン」で、発行されたのは一八五二年である。著者はチヤアレス・マツクフアレエンといひ、日本に来たことはないが、頗る日本に興味をもつた人である。少くとも、興味をもつたと称する人である。「ジヤパン」は、この人が、ラテン、ポルトガル、スペイン、イタリイ、フランス、オランダ、ドイツ、イギリス等の文献から、日本に関する記事をあつめ、それを集大成したものである。それ等の文献は、一五六〇年から一八五〇年の間のものをあつめたものであるが、著者がかういふ題目、即ち、日本に興味をもち出したのは、兵站総監ジエエムス・ドラマンドといふ人のおかげだつたらしい。なんでも、このドラマンドなるものは、若い時に実業に従事して、イギリス人であるにも拘らず、オランダ人といふ名前の下に日本にも数年住んでゐた。著者マツクフアレエンは、ブライトンで、このドラマンドに会ひ、その、日本に関する書物の蒐集を見せて貰つた。ドラマンドは、著者にそれ等を貸したばかりでなく、いろいろ、日本の事情などを話して聞かした。著者はそれ等の談話をも参照して、この「ジヤパン」といふ本を書きあげたのである。猶、ついでにつけ加へれば、このドラマンドといふ人は、名高い小説家スモレツトの曾姪を細君にしてゐて、そのまた細君は、甚だ文学好きだつたといふことである。
 この本はかういふ因縁の下に出来あがつたものであるから到底実際日本の土を踏んだ旅行家の紀行ほど正確ではない。現に銅板の[#挿絵]絵なども朝鮮の風俗を日本の風俗として、すまして入れてゐるくらゐである。しかしそれだけに今日のわれわれから見ると一種の興味のない訣ではない。例へば日本の皇帝は煙管を沢山もつてゐて、毎日違つた煙管で煙草をのむなどといふことを真面目に記載してゐるのは頗る御愛嬌といはなければならぬ。この本の中に日本の女を紹介し且つ論じた一章がある。それを今ざつと紹介して見ようと思ふ。
 女が社会的にどういふ地位を占めてゐるかといふことは、著者マツクフアレエンによれば、文明の高低をはかる真の尺度であるが、日本の女の社会的地位は、如何なる他の東洋諸国よりも、数等高い。日本の女は、他の東洋諸国の女のやうに、幽閉同様の憂き目を見てゐない。相当の社会的待遇を受けてゐるのみならず、その父や夫の遊楽にあづかることも出来るものである。
 妻の[#「 妻の」は底本では「妻の」]貞操や処女の童貞の如きは、全然、彼等の名誉の観念に一任されてゐるが、不貞の妻などといふものは、殆んど一人もゐないといつてもいい。尤もこれは、貞操を破つたが最後、直ちに死を受けるといふ事実のために、一層厳守されてゐることは事実である。
 日本では、一番身分の高いものから、一番身分の低いものに至るまで、誰でも必ず学校教育を受ける。伝ふるところによれば、日本国中の学校の数は、…

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