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三つの指環
みっつのゆびわ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「芥川龍之介全集 第二十二巻」 岩波書店
1997(平成9)年10月30日
入力者土屋隆
校正者林幸雄
公開 / 更新2007-11-20 / 2014-09-21
長さの目安約 11 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

[#挿絵]
 昔々、バグダツドのマホメツト教のお寺の前に、一人の乞食が寝て居りました。丁度その時、説教がすんだので、人々はお寺からぞろぞろと出て来ましたが、誰一人としてこの乞食に、一銭もやる者はありませんでした。最後に一人の商人風の人が出て来ましたが、その乞食を見ると、ポケツトから金を出してやりました。すると乞食は急に起き上つて、「難有う御座います、陛下、アラアはあなたをお守り下さるでせう。」と云ひました。しかしその商人は気にも止めずに行き過ぎようとしますので、乞食は云ひました。「陛下、お止り下さい。お話したい事があります。」すると商人風の人は振り返つて、「私は陛下ではない。」と云ひますと、乞食は「いや、今度の陛下は駱駝追ひになつたり、水汲みになつたりして、下情を御覧になるさうです。私は朝からかうして憐みを乞うて居りますが、誰一人として私にお金を恵んで下さいません。私は陛下にお礼として、一つの指環を差し上げたいと思ひます。この指環は、アラビヤの魔神の作つたものでして、若し誰か陛下を毒害しようとすると、この指環についてゐる、赤い石が青くなります。」と云つて、驚いて見てゐる商人風の人の手に指環をのせると、そのまま掻き消す様に見えなくなりました。
 次の日の夕暮れ、バグダツドの一つの井戸は、町の女達の水汲みで一頻り賑つてゐました。その井戸の前で、前の日お寺の前で乞食に陛下と云はれた商人が、一人の娘と話してゐました。その女は大層見窄らしいなりをしてゐましたが、非常に美しい、涼しい眼を持つた女でした。その時商人が娘に云ひますには、「私は随分長い間、毎日あなたとここで話して居りますが、いつでもあなたは、私の掛ける謎を即座に解いてしまひます。私はあなたの頭の良いのと、その上美しいのに感心しました。どうか私の妻になつて下さいませんか。」娘「私の良人となる人は、本当に私を愛してくれる人でなくてはなりません。顔が美しいとか、醜いとか云ふのみで妻にしたいと云ふ様な人には到底私は身を任す事は出来ません。」と云ひますと、商人は「それでは、私の家へ来て私と同じ生活をして、私が本当にあなたを愛してゐるかどうかを見て、そして私の心が分つたならどうか私の妻になつて下さい。その間私は、あなたを妹として取扱ふでせう。」と云ひます。娘「私は、あなたと長い間お話してゐますが、未だあなたのお名前もお所も存じません。」商人「私は、父の後を継いで位についた、この国の王アブタルである。」と云つて口笛を吹きますと、何処からともなく大勢の奴隷が、象牙で拵へた美しい輿を持つて来て、その娘を乗せて宮城へと帰つて行きました。
 さて、娘が王宮へ伴れて行かれた翌朝、王様はその娘と話をしようとして、娘の室に来ますと、驚いた事には、その娘の顔は一夜の中に腫物だらけとなつて、二目と見られない女となつてゐました。これを見た王様…

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