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予が半生の懺悔
よがはんせいのざんげ
作品ID383
著者二葉亭 四迷
文字遣い新字新仮名
底本 「平凡・私は懐疑派だ」 講談社文芸文庫、講談社
1997(平成9)年12月10日
入力者長住由生
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2000-05-04 / 2014-09-17
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 私の文学上の経歴――なんていっても、別に光彩のあることもないから、話すんなら、寧そ私の昔からの思想の変遷とでもいうことにしよう。いわば、半生の懺悔談だね……いや、この方が罪滅しになって結句いいかも知れん。
 そこでと、第一になぜ私が文学好きなぞになったかという問題だが、それには先ずロシア語を学んだいわれから話さねばならぬ。それはこうだ――何でも露国との間に、かの樺太千島交換事件という奴が起って、だいぶ世間がやかましくなってから後、『内外交際新誌』なんてのでは、盛んに敵愾心を鼓吹する。従って世間の輿論は沸騰するという時代があった。すると、私がずっと子供の時分からもっていた思想の傾向――維新の志士肌ともいうべき傾向が、頭を擡げ出して来て、即ち、慷慨憂国というような輿論と、私のそんな思想とがぶつかり合って、其の結果、将来日本の深憂大患となるのはロシアに極ってる。こいつ今の間にどうにか禦いで置かなきゃいかんわい……それにはロシア語が一番に必要だ。と、まあ、こんな考からして外国語学校の露語科に入学することとなった。
 で、文学物を見るようになったのは、語学校へ入って、右のような一種の帝国主義に浮かされて、語学を研究しているうちに自らその必要が起って来たので。というのは、当時の語学校はロシアの中学校同様の課目で、物理、化学、数学などの普通学を露語で教える傍ら、修辞学や露文学史などもやる。所が、この文学史の教授が露国の代表的作家の代表的作物を読まねばならぬような組織であったからである。
 する中に、知らず識らず文学の影響を受けて来た。尤もそれには無論下地があったので、いわば、子供の時から有る一種の芸術上の趣味が、露文学に依って油をさされて自然に発展して来たので、それと一方、志士肌の齎した慷慨熱――この二つの傾向が、当初のうちはどちらに傾くともなく、殆ど平行して進んでいた。が、漸く帝国主義の熱が醒めて、文学熱のみ独り熾んになって来た。
 併し、これは少しく説明を要する。
 私のは、普通の文学者的に文学を愛好したというんじゃない。寧ろロシアの文学者が取扱う問題、即ち社会現象――これに対しては、東洋豪傑流の肌ではまるで頭に無かったことなんだが――を文学上から観察し、解剖し、予見したりするのが非常に趣味のあることとなったのである。で、面白いということは唯だ趣味の話に止まるが、その趣味が思想となって来たのが即ち社会主義である。
 だから、早く云って見れば、文学と接触して摩れ摩れになって来るけれども、それが始めは文学に入らないで、先ず社会主義に入って来た。つまり文学趣味に激成されて社会主義になったのだ。で、社会主義ということは、実社会に対する態度をいうのだが、同時にまた、一方において、人生に対する態度、乃至は人間の運命とか何とか彼とかいう哲学的趣味も起って来た。が、最初の頃は純粋に…

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