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キュリー夫人の命の焔
キュリーふじんのいのちのほのお
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第十七巻」 新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日
初出「少女の友」1939(昭和14)年12月号
入力者柴田卓治
校正者磐余彦
公開 / 更新2003-12-12 / 2014-09-18
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 偉い女のひとというものは、歴史の上で何人かいますし、現在でも世界には幾人かの偉い婦人と呼ばれるにふさわしいひとがいるでしょう。
 けれども、ひとくちに偉いと云っても、その内容はいろいろで、えらさの大きさにも亦様々のちがいがあると思われます。よく婦人雑誌の実話などのなかに、たとえば手内職から今日の富豪となる迄の努力生活の女主人公として女のひとの立志伝がのったりしますが、そういうひとの生涯でも、或る意味ではやはりえらいと云えるでしょう。普通の人間の忍べないと思うような辛苦をよく耐えたり、機智を働かして窮地を脱したり、その点では人並以上の生活の力を発揮しているわけですが、そういう立志伝を読むと、多くの場合私たちの心には、何か一筋のものたりない感情がのこされるのは何故でしょう。それはえらいには違いない、けれども、という心持が湧くのは何故でしょう。そこにこそ、人間の本当のえらさの微妙な意味がひそめられているのだろうと考えます。一人の人が自分のためだけに志を立て、自分の成功のためだけに努力し、富を殖し、社会的に有名人となったというだけの話をきいても、私たちが真の人間としての偉さにうたれたり、心の高まるような歓びを見出したり出来ないのは自然でしょう。本当の偉さはそういうどちらかというと自分中心の成功に満足している姿のなかには見出せないものです。
 キュリー夫人伝は近頃非常にひろく多勢の若い人たちに読まれた本でした。おそらく、この雑誌の読者のかたも読んでいられるでしょう。そして、きっといろいろな感動をうけながら読み終られたことだろうと思います。キュリー夫人は、疑いもなく世界の偉い婦人のうちの一人です。では、キュリー夫人の偉さ、美しさ、私たちの記憶にとどまって困難なときの私たちにとって励ましの魅力となる生気は、彼女の生きかたのどういうところから湧き出ているのでしょうか。
 伝記を読んだ方々には御承知の通りに、マリヤは、ポーランドの首府ワルソーで中学校の物理の先生をする傍副視学官をつとめていたスクロドフスキーの四人娘の末っ子として生れました。西暦一八六七年十一月に生れたから、日本が明治元年を迎えた時です。聰明で教養も深い両親の御秘蔵っ子としてのマーニャは、いつも家庭のたっぷりした情愛につつまれて幼い時代を過したけれども、小学生になる頃からは、もうポーランドという国が蒙っていた昔の露帝の圧迫のわけまえをになって、教室で意地わるい視学の問いに、苦しい答えをしなければならないような経験の裡に成長しました。マーニャの家は、貧しいポーランドの貧しい小貴族の端くれで、経済的には決して楽でなかったことは、マーニャの生れた時分既に結核の徴候があらわれていて閉じこもり勝であった美しくて音楽ずきの母が、小さいマーニャのために自分で靴を縫ってやっているという家庭情景の描写のうちにも十分窺えます。マ…

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